今回、ロシアと共同で製作したTFインサート・コイルは、ITERに代表されるトカマク型核融合実験炉において、高温プラズマを閉じこめるために強力な磁場を発生するトロイダル磁場コイル用の超電導導体を試作したもので、13 Tの磁場中で46 kAの電流が流せるよう設計された。さらに、本コイルでは超電導導体の構造材(ジャケット)に純チタンを使用し、高い超電導性能と製作の合理化をねらった。純チタンを超電導導体に応用する技術は、原研が長年開発してきたもので、その成果が日露の研究者の協力によりロシアの技術と融合し今回の結果に結びついた。
TFインサート・コイルは、外径1.5 m、高さ2.8 m、重量3トンの単層のソレノイド・コイルである。同コイルの開発目標は、①ITERトロイダル磁場コイル用超電導導体の実寸サイズでの製作の実証、②設計条件である13 T、46 kAでの性能の実証、③純チタンを導体の構造材(ジャケット)に使用する技術の確立にあった。同コイルの超電導導体には、ロシアが製作したニオブ・スズ超電導素線を用い、導体ジャケット材料には純チタンを使用している。純チタンをジャケット材に用いることにより、ニオブ・スズが持つ高い超電導特性を発揮できるようになった。また、従来のようにインコロイをジャケット材として使用した場合には、ニオブ・スズ生成熱処理時に酸素濃度を0.1 ppm以下に制御する必要があったが、純チタン材をジャケット材料に使用することにより大気中で熱処理が可能となり、コイル製作の合理化ができた。
今回の成功について、原研超電導磁石研究室長奥野清氏は、「チタンを超電導導体に使用する技術が確立するとともに、今回の成果でITER建設に必要とされる超電導技術が日米欧露の4極で整ったことになる。《と語っている。
TFインサート・コイルは、2001年10月19日に全ての通電実験を終え、現在、昇温が完了している。
図1 エフレモフ電気物理工学研究所(サンクト・ペテルブルク市)で製作され、
原研で試験されたTFインサート・コイル
図2 TFインサート・コイルに用いられている超電導導体
(上悟房)