SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

4. ロシア製超電導コイルの国際共同試験で世界最高水準を達成
_原研_


 日本原子力研究所(原研)は、国際熱核融合実験炉(ITER)実現の鍵を握る超電導モデル・コイルの製作、及び性能評価を日本、米国、EU、ロシアによる国際協力で進めてきた。この一環として、このたびロシア・エフレモフ電気物理工学研究所と共同で製作した超電導コイル(TFインサート・コイル)の試験を原研に於いて行い、13テスラの磁場中で4万6千アンペアの通電に成功した。この成果は、2000年に原研と米国が共同で製作した超電導モデル・コイル(CSモデル・コイル)で達成した世界最高水準に並ぶものである。本通電試験は、ロシア製コイルを原研の実験設備に組み込み、原研の主導のもと、ロシア、EU、米国の研究者も参加して、2001年9月17日から同10月19日までの間、国際共同実験として実施された。

 今回、ロシアと共同で製作したTFインサート・コイルは、ITERに代表されるトカマク型核融合実験炉において、高温プラズマを閉じこめるために強力な磁場を発生するトロイダル磁場コイル用の超電導導体を試作したもので、13 Tの磁場中で46 kAの電流が流せるよう設計された。さらに、本コイルでは超電導導体の構造材(ジャケット)に純チタンを使用し、高い超電導性能と製作の合理化をねらった。純チタンを超電導導体に応用する技術は、原研が長年開発してきたもので、その成果が日露の研究者の協力によりロシアの技術と融合し今回の結果に結びついた。

 TFインサート・コイルは、外径1.5 m、高さ2.8 m、重量3トンの単層のソレノイド・コイルである。同コイルの開発目標は、①ITERトロイダル磁場コイル用超電導導体の実寸サイズでの製作の実証、②設計条件である13 T、46 kAでの性能の実証、③純チタンを導体の構造材(ジャケット)に使用する技術の確立にあった。同コイルの超電導導体には、ロシアが製作したニオブ・スズ超電導素線を用い、導体ジャケット材料には純チタンを使用している。純チタンをジャケット材に用いることにより、ニオブ・スズが持つ高い超電導特性を発揮できるようになった。また、従来のようにインコロイをジャケット材として使用した場合には、ニオブ・スズ生成熱処理時に酸素濃度を0.1 ppm以下に制御する必要があったが、純チタン材をジャケット材料に使用することにより大気中で熱処理が可能となり、コイル製作の合理化ができた。

 今回の成功について、原研超電導磁石研究室長奥野清氏は、「チタンを超電導導体に使用する技術が確立するとともに、今回の成果でITER建設に必要とされる超電導技術が日米欧露の4極で整ったことになる。《と語っている。

 TFインサート・コイルは、2001年10月19日に全ての通電実験を終え、現在、昇温が完了している。

図1 エフレモフ電気物理工学研究所(サンクト・ペテルブルク市)で製作され、
原研で試験されたTFインサート・コイル

図2 TFインサート・コイルに用いられている超電導導体

               

(上悟房)