SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

3. 強磁場スパッタリング
―高品位薄膜実現へバルク超電導を利用
_名大、イムラ、アネルバ、ダイアックス、名古屋産科研_


 IT革命の進展とともに半導体デバイスに使われる各種機能性薄膜へのニーズが強まっている。こうした中で新しい製膜装置として名古屋大学大学院工学研究科の水谷宇一郎教授らのグループによる「超電導永久磁石による強磁場プラズマ成膜装置の研究開発」が始動した。この研究課題は2001年度文部科学省の革新的技術開発研究推進プロジェクトに採択され、研究グループは水谷教授の他に生田博志名古屋大学理工科学総合研究センター助教授、イムラ材料開発研究所(愛知県刈谷市)、ダイアックス(同春日井市)、静岡アネルバ(静岡県富士宮市)、名古屋産業科学研究所(名古屋市中区)で構成され、3カ年計画で取り組む。

 マグネトロンスパッタ装置にはプラズマをターゲット上に集中させるため従来ネオジウム・鉄・ボロン磁石が使われてきたが、その有効な水平磁場成分は最大0.2テスラ程度である。水谷教授らのグループはネオジウム・鉄・ボロン磁石よりはるかに強力な超電導永久磁石を用いて1テスラを越える水平磁場を実現し、プラズマ密度の格段の向上を図るのがねらいである。これが実現すると10-5 Torr台の放電が可能となり高い真空度でスパッタ・ダメージが少ない高品質な薄膜の製造が見込まれるだけでなくスパッタ速度の向上、さらにターゲットとして肉厚の磁性材料を使う道が開けると期待される。

 超電導永久磁石を搭載したマグネトロンスパッタ装置は原理図に示す。当面、バルク超電導体として名大グループで開発した直径36 mmのSm123系バルク超電導体が採用され、GM冷凍機のコールドヘッド上に設置している。真空容器とプラズマガンが切り離される構造になっており、静磁場で着磁する場合はヘッドをボアの中に挿入し、FCモードで30 Kまで冷却し超電導体表面に6-7テスラの着磁を施す。パルス磁場で着磁する場合には30 Kまで冷却後パルス磁場を用いて最大4テスラまで着磁する。現在、平成13年度内の完成を目指して名古屋産業科学研究所(名古屋市守山区志段味地区)で装置を製作中である。成膜速度、膜質などの評価を通じて放電特性と磁気回路の最適化を図りながら新しい成膜装置として掲げた性能目標の達成を目指す。この成膜装置の製品化のステップでさらに大きな径のバルク超電導材料を搭載する計画であり、そのために大型バルク超電導材料の開発がこのプロジェクトで並行して進められている。


図1 超電導プラズマ成膜装置の原理図

               

(UM)