SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

19. 書評 Book Review


『超電導新時代 ―実用期に入った新世紀技術―』
村上雅人著 工業調査会発行 本体価格 1900円 ISBN4-7693-1204-0 B6判 222頁

 本書は、一般向けの超電導応用の解説本である。本Kブックシリーズには、初期に超電導考現学(荻原宏康著)があるだけで、久し振の超電導ものである。超電導技術の特徴は“究極の省エネルギー技術”であり、エネルギー問題や環境問題が深刻化しつつある昨今、まことに時宜に適った出版といえよう。身近な利用から巨大プロジェクトまで、超電導応用の全貌を多くの実用例を交えて、分かり易く解説している。高校生、大学生、ビジネスマンなど一般人向けであるが、超伝導研究者にとっても最新の応用超電導を勉強し直す本として最適である。また最後に、超電導の発現メカニズムについてもやさしく触れており、超電導の本質を短時間で知りたいと云う人にお薦めの一冊である。

 本書の内容は、まず序章で『超電導』と『超伝導』のどちらの表記も正しい事が述べられ、第1章では超電導の特徴として六つの特性と各種の超電導材料が紹介されている。第2章では、夢の高速列車—超電導磁気浮上列車や各種の超電導リニアが説明され、第3章ではMRI、心磁計など超電導が変える医療の世界が紹介されている。続いて第4章では、超電導送電ケーブルや超電導トランスなど超電導の電力応用が取り上げられ、第5章では超電導アンテナやフィルターで変わる携帯電話が紹介され、第6章では超電導コンピュータについて説明している。第7章と第8章では、超電導磁気分離技術による環境保全やスイカの超電導選別など超電導の農林水産への応用が紹介されている。第9章、第10章及び第11章では、超電導加速器による究極の素粒子探究や超電導技術による核融合及びMHD発電の実現と高温超電導による果てしない夢の探求が語られている。最後は、電子対による超電導発現の謎解きと超電導トンネル効果の分りやすい解説である。

 著者は、高温超電導材料の優れた研究者で、特にバルク超電導体では第一人者と云われている。研究は勿論のこと、諸大学の客員教授あるいは非常勤講師を務めるなど幅広く活躍している著者ならではの、分り易くユーモアのある記述も本書の魅力の一つといえよう。

(こゆるぎ)