SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

18.溶融・凝固過程における合金材料の磁気効果


 去る11月21日、低温工学協会新磁気科学調査研究会の今年度の第2回研究会が開催され、大阪大学大学院工学研究科安田秀幸助教授の講演が行なわれた。講演ではまず、金属・半導体に非接触で力を作用させる手段のひとつであるローレンツ力を利用した凝固過程の組織制御の取り組みとして、凝固過程で形成される相の一つが液相である、偏晶反応を伴う合金系における磁場印加の効果について紹介された。さらに、結晶磁気異方性を利用した結晶配向組織形成について、通常の凝固過程において配向組織が得られない系においても非平衡組織の溶解を利用することにより配向組織が得られ、さらにこのようなプロセスに加えて粗大化の過程でも配向組織が形成されることが見出されること、これらの現象を利用して局所的に配向組織を形成し、応用展開を目指していることなどが紹介された。

 偏晶合金は凝固過程で新たな液相を形成する系である。少なくとも晶出する相の一つは液相(液体)であり、密度差や液/液界面の界面エネルギーの組成・温度依存性により流動が生じるために均一な組織を得ることが困難である場合が多い。偏晶合金を一方向に凝固した場合、二つの固相が晶出する共晶組織に類似した母相中にL2相がロッド状に整列する組織が得られることが知られているが、均一なロッド組織が形成される範囲は限られている。本講演ではそのような偏晶合金の凝固過程における磁場印加効果について述べられた。図1は過偏晶組成であるAl-10at%In合金に様々な磁場を印加して得られた一方向凝固組織(成長方向に平行な断面、成長方向は左から右)である。0 Tの試料では部分的にInが集積している組織が観察された。一方、磁場強度が増加するとともにIn相のロッドが成長方向に平行に連続的に形成された。ロッド間隔・半径に対する磁場強度の影響を定量的に評価するため、局所ロッド間隔(ロッド周辺200 mm)とInロッドの大きさとの関係を求めると、0 T、2 Tでは大きなロッドの周りはロッド間隔が広く、小さなロッドの周りはロッド間隔が狭い傾向にあり分布が不均一であるが、4 T、6 T、8 Tではロッド間隔が比較的狭い領域にのみ存在し、均一な組織になることが明らかになった。磁場印加によるロッド均一化の原因としては、In液滴が凝固界面にプッシングされる際に液滴背後への流動が磁場により抑制され、磁場を印加していない時に比べて小さな半径の液滴が凝固界面に容易に捕捉されるということ、及び、凝固界面付近に濃度差・液/液界面の存在により生じる流動が磁場により抑制され、界面付近の物質輸送が拡散律速に近づくためであるという主張がなされた。今までは流動の影響と他の因子の影響を分けることができないために不明な点の多かった偏晶系における組織形成機構において、磁場の印加は成長速度、温度勾配、試料サイズなどの変更なしに流動を抑制することができ、均一な組織形成を可能にするだけでなく、その凝固機構の理解にも有益な情報を与えると考えられるという。

 材料プロセスにおいて磁場印加は配向組織・異方的組織形成への手法としても期待されているが、これまでの凝固プロセスにおける磁場印加のよる配向組織形成では、材料を融点以上に溶解し、液相中に分散した結晶・形状磁気異方性を有する固相の回転・移動により配向させる方法が大半であった。この方法では平衡状態で固相が液相に囲まれた状態が実現しない系や融点付近で立方晶系となる常磁性体のように、磁化率に異方性のない系では凝固中の結晶配向は起こせないという制限がある。本講演では、これを打開する手法として、非平衡組織を利用した配向組織制御プロセスについての紹介があった。包晶化合物BiMnでは、通常の融点以上からの冷却による凝固過程では配向組織は得られないが、急冷によって得られた非平衡組織の加熱により形成される半溶融状態及び、固相中粗大化過程で磁場を印加することによりの配向化が可能であるという。固相中粗大化に関しては、10 Tの印加磁場下で240°C、48 hアニールしたBi-20at%Mnの急冷凝固組織を観察したところ、磁場に垂直な面では(002)、磁場に平行な面では(110)のピークが無磁場下でのものより大きくなり、アニール中に印加した磁場とBiMn化合物のc軸が平行になる組織が形成されたものと考えられる。磁場を印加していない場合、粗大化の過程は界面エネルギーが駆動力となって起こるが、磁場を印加することにより磁気エネルギーが界面エネルギーと同様に粗大化の駆動力となり得ることを示すものであるという。図2は磁場中粗大化過程の概念図である。磁場中ではBiMnの粗大化は粒子の曲率効果だけでなく、磁気異方性エネルギーも寄与し、印加磁場に対して磁気エネルギー的に有利な粒子(c軸が印加磁場方向に近い粒子)が成長し、不利な粒子が消滅していく結果、配向組織が得られるとする考察が紹介された。

 このようにして非平衡組織から配向組織が得られたが、これは固相(無配向で非平衡組織)-固相(配向組織で平衡相)の過程であり、完全に液相になることはなく、部分的な溶解が可能であるため、目的とする場所のみを選択的に配向できることになる。レーザー光源を利用するなどして磁場中での選択的な加熱を行なう事で、部分的な配向組織形成及びデバイス化への展開の可能性が示された。

 本講演では、金属における強磁場印加が材料作製プロセスとして有効であることが示されたが、同様な機構により、酸化物など他の系に対する磁場印加効果にも期待が持たれた。強磁場利用についての研究がこれからどんどん広がりを見せ、注目を集めるだろうことを予感させる講演会であった。

 なお、次回の同研究会は、3月4日に物質・材料研究機構の木吉 司主任研究員を招き、「TMLにおけるマグネット開発とその展開」と題して開催される予定という(詳細は会告欄参照)。参加には低温工学協会の会員である必要はなく、興味のある方は誰でも歓迎という。参加希望、問合せは、主査の廣田憲之氏(東大・新領域; tel 03-5841-8389, fax 03-5841-7195, E-mail:hirotan@k.u-tokyo.ac.jp)まで。


図1 Al-10at%In偏晶合金の一方向凝固組織(成長方向に平行な断面)


図2  粗大化過程において、配向組織が形成される機構

(ろんりぃ☆ちゃっぷりん)