SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

15.第10回日米高温超伝導ワークショップ会議報告
―物材機構で発見


 昨年12月2日から三日間にわたって、米国のサンタフェにおいて第10回日米高温超伝導ワークショップ(日本側コーディネーターは未踏科学技術協会超伝導科学技術研究会)が開催された。今回のホスト役はLos Alamos National Laboratory(Key person: Dr. J. Willis氏)で、プログラムが朝から夕食を挟んで夜の9時半まで続くなど、スケジュールがややタイトであったものの、大変に良くオーガナイズされた会議で気持ちの良いものであった。また期間中に研究所のSuperconductivity Technology Centerを見学できたのも収穫だった。今回は同時多発テロ事件の影響で日本からの参加者が若干少なかったが、比較的小さな会場でアットホームな雰囲気で進められ、何時になく白熱した議論が展開されていたように思う。以下では、ビスマス系線材ならびにMgB2のセッションについて簡単に報告したい。

●Bi系線材セッション

 Oxford Superconducting TechnologyのMarkenはBi-2212線材について報告した。線材のフィラメント数やサイズ、加工条件、熱処理条件などを制御して高いJc特性を達成したと述べた。また、合金シースを用いることにより、耐ひずみ特性を改善できたとしている。またFlorida大で5テスラを発生するBi-2212内挿マグネットを計画中であり、19テスラ超伝導マグネットと組み合わせて24テスラの発生を目指すとしている。またBi-2212ディップコートテープを、冷凍機冷却MRIマグネットに使う計画についても述べた。 ASCのParrellaは同社のBi-2223線材の進捗状況を報告した。実用化に向けて着実に進歩していることを強調し、350 m以上の長さにわたって〜170 A(77 K、ゼロ磁界)のIcが得られ、またE-J特性のn値も16〜20の比較的高い値が得られているとしている。現在の線材においては、Bi-2223の能力を出し切る状態からは程遠く、特性当たりの製造コストについても、大幅な低減が可能であるとしている。また年間の生産量は、長さで10,000 km以上を目標にしていると述べた。

 Argonne National Lab.のMaroniは、Bi-2223/Ag線材の新しい熱処理法について述べた。825 ℃において0.08気圧の酸素分圧下で300分の熱処理を行うと、非超伝導相の体積分率を低下させることが可能であるとし、これは中間加工後の最終的な線材のJcの向上に有効であると述べた。このようにして、〜4 x104 A/cm2 (77 K、ゼロ磁界)のJcが得られるとしている。

 秋田大のNagataは、8 Tの磁場中で部分溶融―徐冷熱処理することによりBi-2201バルクを作製した結果について発表した。ゼロ磁場で熱処理した場合は5〜10 mm2の大きな結晶は表面近傍にしか見られず、またその厚さは100 mm程度であるのに対して、磁場中で熱処理した場合は、厚さが0.8 mmの大きな結晶が表面だけでなく中心部分にも見られた。また磁化曲線のヒステリシスは磁界を試料に平行にかけた場合は垂直にかけた場合よりも一桁大きく、Bi-2201の配向化が見られるとしている。 Wisconsin大のHellstromは、Bi-2223線材について高圧熱処理の効果について発表した。インコネルのチューブにテープを封入し全圧200気圧で熱処理することにより、中間圧延なしでも空隙を減少させることが可能でJcを改善することが可能としている。また熱処理後のアニールの効果についても触れ、アニールによってBi-2212のintergrowthを減少させることが可能で、これによりJcが増大すると述べた。

 Florida大National High Magnetic Field Lab.(北見工大)のMaedaは、Bi-2212層厚の大きなテープを磁場中で溶融―凝固させ、高いc軸配向度とJcの向上を得ている。ディップコート法により100 mm以上の厚さを持つテープを作製し、これらを9テスラまでの磁界中で部分溶融―徐冷凝固した。磁界はテープ面に垂直に印加している。その結果、Bi-2212層の厚さ全体にわたって高い配向性が得られ、またJcも磁界が6~7テスラまでは磁界とともに向上すると述べた。Bi-2212が配向するのは、常磁性帯磁率の異方性によるとしている。

●MgB2セッション

 一方MgB2については、まずAmes Lab.のBud’koが、多結晶バルクならびにボロンファイバーを使った線材の作製と特性について述べた。上部臨界磁界Hc2の異方性はかなり大きく、Hc2(//ab) / Hc2(//c)が5-9としている。

 物材機構のKumakuraは、ステンレス管や炭素鋼の管などを使ってpowder-in-tube法で作製した線材について報告した。熱処理なしでもゼロ磁界で4x105 A/cm2 (4.2 K、ゼロ磁界)程度のかなり高いJcが得られるが、加工後の熱処理により、〜10テスラにおけるJcが約一桁上昇すると述べた。またテープでは高磁界においてかなり大きなJcの磁界方位による異方性が認められるが、これはテープ圧延加工によって導入されたMgB2結晶のc軸配向によるとしている。

 Ohio State大のSumptionは、Feシース単芯および多芯線材について磁化測定を行い、JcやACロスなどについて考察した。比較的高い磁場では、Feシース材のシールド効果によってMgB2にかかる磁界は外部磁界よりも低くなり、実際のACロスも低下するとしている。しかしながら低磁界では、磁化法による場合はシース材のヒステリシスによってMgB2からのヒステリシスが部分的に相殺され、ACロスは低く見積もられるが、これは見かけの低下に過ぎず、実際のACロスはこれより大きくなると述べた。

 東海大のTachikawaは、ニッケル管を使ったpowder-in-tube 法によるMgB2テープにおいて、種々の低融点金属粉末の添加を試みた。その結果、InあるいはSnを添加した場合にJcが向上したと述べた。特にIn添加効果は顕著であり、10 %の添加でJcが数倍に向上すると述べた。また、加工後に200 ℃程度の低温アニールをほどこすと、さらにJcは向上するとしている。

(物質材料研究機構:熊倉浩明)

●Y系線材セッション

 ロッキー山脈の南東部、約400年前に州都が置かれインディアン様式の街並が見事に保存されたサンタフェで今回のワークショップは行われた。素晴らしい景観と歴史・文化に恵まれた場所で会議に没頭するのはやや躊躇われたが、屋外の寒さも手伝ってか3日間のセッションはそれなりに白熱していた。以下にはYBCO線材(Coated Conductor)の開発に関わる本会議での様子を記すが、残念なことは渡航制限のため日本側からのこの分野の研究者の参加が無かったことで、昨年6月のMRS/ISTEC Workshopのような日米間での議論の盛り上りを欠いたことは否めない。

 Coated Conductorについては、IBAD法を採用するLos Alamos国立研究所グループとRABiTS法で進めているOak Ridge国立研究所グループの2強体制が米国では維持されている。最近の主たる開発課題は日米共通のもので、長尺高Jcテープの開発であり同時に低コスト化が狙われている(目標:10$/kA-m)。短尺テープのJcについては、77 K、自己磁場下(以下のJc値もこの条件)で1 MA/cm2を越えるのは当たり前というレベルに達しているが、Wisconsin大のLarbalestierはYBCO結晶内のJcは約5 MA/cm2であり、粒界組織の改善によってまだ高められることを指摘した。現在、短尺テープの最高のJcは4.4 MA/cm2(Oak Ridge)で、このテープではほぼ理想的な組織が実現されているようである。また、超伝導層のIcの改善ではYBCOとSmBCOの積層によって335Aに達した(Los Alamos研)ことが注目された。長尺化については基体の表面処理から中間層、超伝導層の実質的な高速成膜まで改善するプロセスは多いが、こちらもごく普通に1 m長のテープの特性が報告されるようになった。特に中間層の単純化と高速作製は長尺、低コスト化に必須で脱YSZの動きが目立ってきた。Los Alamos研は長尺ハステロイ基体上へのMgO成膜を積極的に進めており1分の成膜[10 nm厚]で面内配向度8°を達成し、部分的に1 MA/cm2を越えるJcを観測している。一方、Oak RidgeはNi基体上にLaMnO3中間層(スパッタ膜:60 nm厚)を設けるだけで短尺ではあるが1 MA/cm2に迫るJcを実現しているほか、YBCO層の作製においてもBaF2プロセスを長尺テープに適用するため回転反応法を試みている。現時点では、いずれの方法においても1 m長でのJcはまだ1 MA/cm2に至っていないが、会議を経るごとに着実に高くなってきている。このほか、Sandia、Argonne両国立研究所やASC、IGCといった企業が独自の手法を組み込んだ開発を行っており、これらの今後の進展からも目が離せない。なお、本会議の主催者であるLos Alamos研のWillis氏によれば「米国でのCoated Conductorの研究開発予算は単年度のもので、毎年が勝負である。」とのことで、同じく単年度予算ではあるが計画的に開発が進められる日本とはやや事情が異なるようである。今夏のApplied Superconductivity Conferenceでは両国からどのような進展が披露されるか期待が膨らむ。

(東京大学工学部:下山淳一)