SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

14.高温超伝導固有ジョセフソン接合でコヒーレントな振動現象
―物材機構で発見


 物質・材料研究機構のナノ物性研究グループ(ナノマテリアル研究所(超伝導材料研究センター併任))の平田和人サブグループリーダーらは、高温超伝導体に特有なジョセフソン磁束線の挙動の解析に成功した。それによるとジョセフソン磁束線は三角格子状に分布し、磁束線が位相を揃えて整然と高温超伝導体を出入りする状態があることを見出した。ジョセフソン接合を活用した高感度磁場センサー、位相制御素子など新規のデバイスの開発に道を開く成果だ。

 Bi2Sr2CaCu2O8+δ(Bi-2212)をはじめとして酸化物高温超伝導体は層状性構造をとり、結晶の構造そのものに、ジョセフソン接合を多数、内蔵している物質である。これまで、こうした高温超伝導体特有のジョセフソン接合は固有ジョセフソン接合と呼ばれ、ジョセフソンプラズマの存在と高周波発振の可能性、数THzの超高周波照射によるシャピロステップの観測など、特有な現象が見つかっている。今回の研究成果は、この固有ジョセフソン接合の超伝導層に平行に磁場をかけたときのジョセフソン磁束線の挙動に焦点を当てたものだ。

 図1は研究グループが測定に使用した素子の写真と模式図である。素子はBi-2212単結晶をFIBを用いて加工している。c軸方向に電流を流し超伝導層に平行に磁場をかけると、磁場は超伝導体内でジョセフソン磁束線となり、ローレンツ力により超伝導層に平行に動くようになる。すると素子には磁束線フローによる電圧が生ずる。通常、フロー電圧は磁場の大きさに比例するが、研究グループが発見した現象は図2に示すような周期的な振動である。この周期的な振動は臨界電流密度で100 A/cm2以下の低電流密度領域のみで観測され、かつ、超伝導転移温度直下まで観測され、そして、振動の周期は温度、磁場の大きさに依存せず一定であること。振動の周期は素子の幅w(図1素子の模式図参照)のみに依存し、反比例すること。そして、驚くべきことに、振動の一周期は固有ジョセフソン接合二個毎に磁束線一本(2.04x10-7gauss・cm2)が出入りする磁場の増減分に相当することである。以上の結果から、研究グループはジョセフソン磁束線が三角格子を形成しているためであるとしている。

 これまで、ジョセフソン磁束線がどのように分布しているかは数値シミュレーションによる結果のみで、間接的にせよ、三角格子の形成を実験的に明らかにしたのは初めてのことだ。日本原子力研究所副主任研究員の町田昌彦氏がスーパーコンピューターを用いてジョセフソン磁束線フローの数値解析を行っており、これらの実験結果を証明している。また、以上の結果について、東北大学電気通信研究所山下努教授は、「固有ジョセフソン接合に磁束線が一本出入りするごとにフロー電圧が増減することから、高感度な磁場センサーとしての応用が有望である。」とその応用への展開を評価している。今回の結果はジョセフソン磁束線駆動による“ジョセフソンプラズマの発振”という意味で、ジョセフソン磁束の分布状態の知見を得たことは非常に重要である。さらに固有ジョセフソン特性の応用についてはこれだけではないようである。平田サブリーダーによると、「磁束線の数を何らかの方法で制御できれば、それに対応した出力を得ることができ、今までにない新しい機能を持ったデバイスを創製できる可能性がある。」と述べている。こう判断した研究グループは、制御のためにナノレベルの制御電極を形成する試みを開始した。制御電極を作って、磁束線を出入りさせられるようになると、固有ジョセフソン接合を活用した位相制御素子を実現できる可能性がある。また、ある一つの超伝導層に準粒子やクーパー対粒子を注入して、固有ジョセフソン接合全体に流れる超伝導電流を制御することも可能になる。物質・材料研究機構のナノ物性研究グループは、固有ジョセフソン接合の新しい特性を探索しつつ、ナノ構造を構築するための技術開発と特性評価を行っている。同グループは高温超伝導体の単結晶は従来の金属系超伝導体とは異なり、ナノレベルでの構造に多くの応用の可能性を秘めているとみて、研究を鋭意、進めていく考えだ。

     

(GAJI)