SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

12.超伝導単結晶集積回路とテラヘルツデバイスの開発
―10,000 個の固有ジョセフソン接合の作製に成功
_東北大未来科技センター_


 東北大学未来科学技術共同研究センター山下努教授のグループはJST戦略基礎研究プロジェクトで、10,000以上もの固有ジョセフソン接合を形成させることに成功し、2.5 Vまで零交差シャピロステップを観測したことを公表した。

 その加工技術は、昨年の本稿(Supercom, Vol.10, No.2, P.9, 2001.4)で報告した両面加工プロセスを発展させたものである。開発した加工プロセスは、通常のリソグラフィ技術に基づいているが、単結晶デバイスの作製におけるブレークスルーであり、様々なデバイス構造とその集積回路を作製する際に用いられてきた。

 図1は、固有ジョセフソン接合(IJJ)を互いに直列接続したスタックの作製方法を模式的に示したものである。まずBSCCO単結晶をへき開し、基板1に固定してから表面を金薄膜で覆い、2つのスタック構造をもつメサ(図中点線の丸印)をフォトリソグラフィでパターニングした後に製作した(図 1(a))。メサは別の基板(図1(b)の基板2)上に貼り付けられ、下地の結晶からへき開し、その結果、200〜300 nm高さをもつΠ型の試料が基板2上に立てられる。50 nmの金薄膜を試料上にスパッタした後、中心部を保護するためにストリップ状のフォトレジストを置き、所望の接合数(数個〜数十個)に応じた高さだけ、レジスト以外の部分をArイオンミリングで掘り下げた(図1(c))。基板1にはどのような基板でも用いることができるが、基板2には実用上マイクロ波帯で低損失なものを考慮し、SiやMgOを専ら使用する。図1(d) にはアレー化によりもっと多くのスタックを含ませる方法を示している。

 実際、150ミクロン×170ミクロンの領域に積層スタックを256個直列接続したものを作製することにより、10,000以上もの固有ジョセフソン接合を形成させることに成功した。図2は、MgO基板上に作製された256個のスタックの顕微鏡写真と、その電流−電圧特性である。接合数は11,000であると見積もられる。図より全ての接合の特性が非常に均一であることが分かる。

 さらに山下教授らのグループでは、その成果をもとにそれらのテラヘルツ応用を多角的に研究した。例を挙げると、上述のIJJアレーの高周波応答を測定している。図3は760 GHz照射下での256スタックアレーの典型的なI−V特性である。零交差シャピロステップ 2.5 Vまで観測されている。50 Kまで零交差ステップが観測されたことから、高温動作の電圧標準器の実現が可能となる見込みである。さらに、10,000もの固有ジョセフソン接合からなる大規模アレーは、コヒーレント放射に基づくテラヘルツ連続発振の可能性が注目される。

 これらの成果のいくつかは、昨年8月に開かれた第5回ヨーロッパ応用超伝導会議(EUCAS) で報告され、 Applied Physics Letter (2002年3月4日号)に出版される。山下教授は「これらの研究は、非常に高く評価されており、高温超伝導体の研究を実用に結びつけるもののうちで、近年最も重要な成果の一つであると思う。産業技術分野とりわけ情報技術産業で特に必要になるであろう。この分野を研究室レベルから、今後、工業生産レベルへと容易に移行させることが可能になるであろう。関連分野の研究グループから共同研究の申し出が数箇所でてきた。」と語っている。

(三尺玉)