SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

11.SN転移型限流素子用の大面積超電導膜を開発
_住友電工_


 住友電工は2001年度秋季低温工学・超電導学会(2001.11.23〜25、福井工業大学)において、大面積超電導薄膜の開発に関する発表を行った。同社では、H12年度から国家プロジェクトに参画し、レーザ蒸着法を用いたSN転移型限流素子用の大面積超電導膜の開発を行ってきた。発表では大面積サイズの超電導膜の均一性と特性の高さに注目が集まった。

 SN転移型限流素子用薄膜に要求される仕様は、大電流を通電でき、かつ常電導転移時の発生抵抗が任意の値を確保できるよう幅広長尺の大面積膜であることが要求される。この様な幅広長尺の均一な大面積膜を作製する手法として、同社では新たに「2次元揺動法」を考案した。この2次元揺動法では、ターゲットにレーザ光を照射することにより発生したプルームに対し、対向面に配置した基板を2次元的に揺動させながら成膜する。この一連の2次元揺動運動を繰り返すことにより均一な大面積膜が得られる。同社では、これまでに大面積超電導膜を作製するための大型のレーザ蒸着装置を新たに導入し、2次元揺動法により3 cm×10 cmサイズの超電導膜の開発に本格的に着手した。基板には限流素子用に適するサファイア基板を採用し、超電導層にはHoBCO(HoBa2Cu3Ox)を用いている。作製した大面積膜は、均一な膜厚分布を示しており、現在は作製条件を最適化しているとのことだが、最新のデータではJc (77 K)は1 MA/cm2以上の特性が確認できているという。

 2次元揺動法と同時に「回転成膜法」でもSN転移型限流素子用の大面積超電導膜の開発を行っている。回転成膜法は、これまで主として超電導マイクロ波フィルター用等のデバイス薄膜用に開発されてきている。本手法によれば、ターゲット上でのレーザ光の形状やエネルギー密度が変化せず特性の面内ばらつきを抑えて均一な薄膜の形成を達成している。回転成膜法では、これまでに3 cm×7 cmサイズのサファイア基板上のHoBCO大面積膜を作製しており、均一な膜厚分布をもつ試料が作製され、77 Kで約2 MA/cm2の均一なJc特性が確認できているという。また、最新のデータとして注目すべき点は、通電特性として1 cm幅あたり約180 AのIc(77 K)を達成していることである。これは、1 MA/cm2以上のJcを維持しつつ、従来サファイア基板上の超電導膜では困難であった約0.7 μmの厚膜化(これまで典型的には約0.3μm)が実現できたことによる。このように大電流通電が可能になったことにより、今後の限流器用途をはじめとする電力用途の実用化が大きく期待できるといえよう。最新のデータについては1月24、25日に電力中央研究所で開催された電気学会超電導応用電力機器・リニアドライブ合同研究会で発表された。

 開発を担当する大松一也主席研究員(住友電工・エネルギー環境技術研究所・超電導研究部)によれば、「将来の分散電源化により限流器のニーズが顕在化してくることを期待している。3 cm×7 cmサイズのHo系薄膜1枚で1 kAの通電も視野に入ってきた。今後の開発が楽しみ。」と語っている。

(H&O)