SOE法はニッケルテープを酸化熱処理してテープ表面に2軸配向した酸化ニッケル(NiO)層を形成し、これをYBCO成膜用の基板として用いるもので、次世代線材の長尺化および低コスト化の有力な方法として開発が進められてきた。現在ではISTEC主導の超電導応用基盤技術研究開発の中で古河電工が長尺化を行っていて、すでに100 m級の2軸配向したSOE基板テープが製造されており、またMgOキャップ層を用いた試料では77 Kにおいて0.1 MA/cm2を越えるJcが得られていた。しかし酸化熱処理後のNiO層の表面粗さが0.1ミクロン以上と大きいため線材のJcの向上において問題となっていた。
今回の京都大学と超電導工学研究所による成果は、機械的研磨による平坦化処理でNiO層の表面粗さを0.005ミクロンまで低減したもので、YBCO超電導薄膜の結晶成長制御に大変有効という。研磨処理はダイヤモンドペーストを用いたバフ研磨で行うが、NiO層の研磨スピードは速いのでSOEテープの製造速度に問題はなく、また長尺化に際しては研磨ゾーンを多数設けることで対応できると考えられている。
平坦化したSOE基板テープ上のYBCO超電導層について報告されている77 KにおけるJc値は、膜厚0.5ミクロンでJc = 0.17 MA/cm2であった。またペロブスカイト型の結晶構造を持つバリウム・錫酸化物(BaSnO3)からなるキャップ層を用いるとJcは0.45 MA/cm2まで上昇した。BaSnO3は格子定数がNiOに近く、また結晶構造がYBCOと同じペロブスカイト構造なのでSOE基板テープのキャップ層として有効という。SOE法による次世代線材としては、平坦性と均一性を向上させて直接NiO上にYBCO膜を形成していく方法と、NiO上に酸化物キャップ層を形成して線材化していくふたつの手法が可能と考えられている。SOE法では基板の平坦化が実現したことで次世代線材作製の組み合わせのバリエーションが拡がってきた。
次世代線材の基礎研究を進めている京都大学工学研究科材料工学専攻の松本要助教授は、「2軸配向基板上への酸化物薄膜形成は酸化物ヘテロエピタキシー技術の観点からも大変興味深い。SOE法への研磨プロセスの導入で1 MA/cm2程度のJcが安定に確保できるようになれば低コストな次世代線材製造プロセスとして有望だろう。研磨技術の工夫で歪みがなくさらに平坦で均一な基板表面を得ることは十分可能と考えている。」とコメントしている。
(RH)