SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.1, Feb. 2002

1. 新春対談:超電導技術の進展と今後の展望
―超電導応用基盤技術開発プロジェクトを中心に


出席者

 田中 昭二(超電導工学研究所所長):A
 北澤 宏一(東京大学新領域創成科学研究科教授):Q
 古戸 義雄(超電導コミュニケーションズ編集長):Q

1.PhaseTからPhaseUへ

Q 超電導技術の進展と今後の展望と言うことで、具体的には応用基盤プロジェクトの現状、成果、今後の展望を中心にお話頂きたい。最初に、導入部としてPhase1からPhaseUに至る経過を紹介頂けないでしょうか。

A  PhaseUの立ち上げに先立って、我国産業界のヒアリングを行い、応用重視の意見を伺った。その結果、応用を目指す4部門(基礎、バルク、線材、エレクトロニクス)への集約を図り、移行はスムーズに行った。SRLも4部門に再編成した。

 線材の方は、当時、次世代線材をやるべきかどうか、相当にもめた。我々が計画を作っていたら、当時DOE(米国エネルギー省)の開発計画が入って来た。我々と似たようなもので、だれでも考えるのは同じようなものである。それでメーカーと一緒に検討して、1年後に線材プロジェクトPhaseUが平成10年から開始され、線材メーカーを入れて再編成したのは11年から。まだ3‐4年しかたってない。

 一方、デバイスは初期の高温超電導3端子素子の開発が思わしくなく、FED(新機能素子協会)でも考えていたが、結局SFQ(単一磁束量子)デバイスに集中しようと言うことになった。SRL6研がHTS(高温超電導)で簡単なSFQ素子を作ったらFlip-Flop動作がうまくいった。しかし、委員会の方でLTS(低温超電導)をどうしようかとなり、結局共存は無理と云うことで、当時の科学技術庁の科学技術振興調整費に応募したら、いっぺんで通り、PhaseUが始まる1年前から高温超電導のSFQデバイスプロジェクトが振興調整費で開始された。それが非常にうまく行って、NECが頑張ってデバイスを試作した。それをみんなで協力しようと大学の先生にも入ってもらって、基本的な回路開発を科技庁プロジェクトで行ってきた。

 総括的に言うと、外国の進展もあったが、我々のプロジェクトの進展が意外に早くて、超電導技術が開花期を迎えたなと言うのが実感ですね。

Q PhaseTとPhaseUの違いは何ですか。

A 大きな違いはPhaseTはSRLのみで、孤立して基礎研究をした。 PhaseUはプロジェクトとして産業界との共同研究に入った。これが非常にうまくいった。ゆるい集中とゆるい分散で、適当なとこでやっていたのが良かったんじゃないですかね。

 例えばデバイスで、うちで1つや2つ作ったものが動いたと言っても、動いただけでどんなジョセフソン接合が一番良いのか、どんな作り方が良いのかと云うのは多分わからなかった。プロジェクトが始まる前に日立の寮に一晩こもって案を作った。その時、誰が言い出したかわからないが、いつの間にかIcの分散が100接合で8 %ぐらいだろうと言う話とか、線材もどんな方法が一番良いかやってみないとわからないと、色々議論して、プロジェクトが始まった。

 一般的に言うと、新しい技術が出るときには、「すごみ」みたいなものも無ければいけない。数量的に言えば在来技術の10倍以上ぐらいじゃないと世の中なかなか受け入れてくれない。そういうすごみのある技術に超電導を育ててみたい、と云うことだった。

2.PhaseUの今までの成果

2.1. バルク

Q 「すごみ」のある例を挙げていただけますか。

A それが最初に出たのがやはりバルクで、先行した。そこでバルクの例でいうとバルクもY系に比べてNd系が良いと言うのがわかってきてますね。だんだんとピン止めが強くなってきて、性能は良くなってきている。樹脂の真空含浸法を見つける前の一番の欠点は機械的強度が弱かったこと。半溶融から成長させるとどうしてもクラックが入ってしまうため、機械的に脆弱だった。だから中に強い磁界を閉じ込めようとしても10 Tもいかないうちに壊れてしまっていた。ところが真空含浸法をやったところ、非常な強磁界でも壊れなかった。その結果、25 mmφと言う小さな円盤に30Kで15Tの磁場をトラップできた。最近の話。これは脅威的なことであって、「すごみ」がある技術と言える。

 そういう意味であるデバイスができたときに、どれだけすごみを出せるかと言うのがこれからの興味になってくる。一つ一つみると、バルクでNd系があって、Sm系、Gd系があるが、Gd系がなかなか面白い、今一番良い性能を出しているのが混晶系でしょう。

 応用を言うと、フライホイールは10 kWh程度。高速回転円盤の大型化が難しい。10 kWhとか15 kWhとかを沢山並べれば良いのではないか。中部電力や四国電力がやっている。これは緊急用の電力系統安定化用UPSを目指す。SMESが良いかどっちが良いか。SMESはBi系では無理なので強磁場に耐える次世代線材ができてからだろう。

 フライホイールの他に、日立と共同した磁気分離装置がなんといっても大きい。これはバルクの特徴を非常に良く使っている。つまり、磁束線と言うのはクローズするのだけれど、非常に小さなところでは表面での磁束の変化がものすごく大きい。微細な分離対象を引っ張るにはHdH/dxが非常に重要で、磁束密度Bの2乗以上に効く。その水浄化システムは非常に便利な方法で、角棒みたいな酸化物超電導体でできる。

 励磁がいつも問題となるが、3.5 Tぐらいまでは使い始めている。これの応用範囲は無限にあるんじゃないかと思う。水浄化は資源を活かすシステムで、磁気分離はフィルターの目詰まりをとって、外へ出すと言う点がうまく考えられたもの。

 それが応用される最大の分野は資源処理かもしれない。その適用を今考えられているのはリン。世界のリン鉱石が不足し始めている。リンが含まれている生活廃水からリンを回収できればリン不足を解決できる。農業なんかにも良いんじゃないか。もっとスケールアップすると色んなことが考えられる。

 九州電力は用水池のアオコを浄化することを考えている。トレーラーに装置を載せて、発電機は自動車のエンジンを使えば1 kAや2 kAは大したことない。そういう移動式のアオコ浄化装置は水浄化の問題はもちろん、アオコの有毒性対策にも使えて、世界中で使われるんじゃないかと思う。海水からウランを取るとかリチウムを取るとか言うプランも出されている。リチウムは取れるんじゃないかと思う。海水の中にウランが40億トンあって、3ppbと非常に少ないんだけど、1000トンで3g、リチウムだと300gはあって、吸着剤は見つかっている。リチウムぐらいはなんとかなる。

Q 他に有望な用途はありますか。

A それ以外にもいろんな応用が考えられる。円盤でなくても強度が十分にあるから変な形に切って、任意の形の磁場が発生できる。任意の形の多角形のバルクを使うと、任意の形の磁場を応用に応じて発生させることが出来る。これは普通のマグネットではできない。コンピューターシミュレーションすればわかるが、真ん中を凹ませたりとか、色んな形の磁場を発生させることができる。これは非常に大きい。

 問題は励磁法で3 Tまでは問題ない。パルス着磁を使えば3.5 Tまではイムラ材料開発研究所で成功している。バルクはコンパクトで局部的に冷やせば良いので、冷凍機も楽になる。まだまだ研究しなければいけないが、バルクの応用先は無限にある、モーターにも使えるかもしれない。今度、東京商船大に研究センターができる。そこでSRLと共同で超電導モーターの開発をやると言う話が進んでいる。もう建物も建って、それが楽しみ。3 Tぐらいの磁場を使ったモーターならすごい強力なものとなる。着磁の問題さえ解決できれば、小さくてものすごい強力なモーターができる。一説では6 Tはなんとかいけそう。パルス着磁でも何段階にも分けて逐次的に着磁していく。

アメリカではモーターにBi系コイルを使ってるのに対して、日本では全く違ったモーターを作る。今までコイルを使ったモーターが先行していたが、バルクがこれを凌駕するだろう。金材研(現・物材機構)に持っていって、実験したところ15 Tが着磁されていた。15 Tが出るとは思わなかった。コイル型超電導磁石でも、4.2 Kで15 T出すのはとても難しい。そういう意味でバルクはもう応用開発の時期に入った。産業界に渡してしまう方が早い。SRLのバルク部隊は基礎という感じでね。

 しかし、ピニング力は「こんなに強いのか」と云うのが実感だ。

2.2 次世代線材

Q 次世代線材の進展はいかがですか。

A 線材は最初は良く分からなかった。たまたま超電導発電機プロジェクトの中で、フジクラがIBAD法を開発し、それから住電がISD法を開発した。最初から長尺化を狙ったが、これが戦略勝ちだった。結局ISD法で住電と東電が、IBAD法でフジクラと中電が組んで、なにもわからないうちからいきなり長尺の100 mを作製すると言うプロジェクトにして、2グループに分けた。その他に新規プロセスのグループを古河、東芝、昭和電線、SRLで編成した。

 とにかくなにが難しいかと言うと、100 mの線材と言うと装置の大型化が必要になってくる。それで初めから大型の装置を作ってしまった。大型になったらフジクラが装置開発に成功してぐっと伸びた。線材は一種の装置産業。今年のプロジェクトの終わりまでには100 m級をなんとかしましょうと言う話がでているほどだ。

 今になってはっきりしてきたのは、最初は基板になるNiの結晶粒を大きくして良いのか、小さくして良いのかわからなかった。僕は粒径をでっかく作れと言っていた。それが色々やってみるとやはりIBAD法では粒子が細かい方が良い。グレインがたくさんないと、1グレインがダメだとみんなだめになってしまう。だからなるべく小さくして、リスクを小さくする。そして面内方位を10°以下に配向させると非常に性能が良い。SRLで解析をやったのだけど、10°以下だと長さに対してIcは、Logで減少していくので、線材の長さが増してもほとんど変わらない。

 古河にNiの小さい粒のものを作ってくれと言った。1 cm幅で100〜200ヶ以上。もともとハステロイは粒が非常に小さい、そして、意外に表面が非常に平坦。その上にYSZを積んで、Arイオンを斜めに入射。イオン工学の専門家に聞くと、まっすぐだとc軸が揃うだけ。斜めからやったからab面も揃ったのではないか。斜め打ちが良い。IBADにするとYSZの表面は出発のハステロイよりもさらに平滑になる。そんな理論はあるのかな?色んな経験から中間層の出来具合で、上の超電導層が非常に影響されることがわかってきて、中間層が悪いやつは全部ダメ。ほぼ決定的になってきた。中間層の形成がいかに重要かがわかってきた。中間層の出来の悪いやつは確かに臨界電流特性も悪い。超電導とはいかに気難しい物質であることか。

 これは、初めから100 mを目指したのが良かった。アメリカは10 mものを目標にしたが、まだ1 mしか出来てない。つまりは装置だと思う。アメリカでは慌てて代議士みんなに手紙を書いて、日本に負けそうだと言うんで、500万ドルの予算を増額した。ロスアラモスに100 m用の装置が入ったが、まだ動き出してはいない。アメリカは中間層をMgOでやろうとしている。フジクラの飯島氏らは、さらに、Gdの入った新中間層を見つけた。

そんなこんなで、とりあえずIBADプラスPLDで100 mの目標を達成することはできそうだ。

Q 新規プロセスの方はいかがですか。

A TFAは最近3〜5層まで急速に伸びてきた。2層で臨界電流は倍増。最近はメガアンペア(MA)の単位に変わってしまうほどの技術の進歩。PLDはスピードが問題。来年度は最終年度で予算が半分ぐらいだろうから装置は一切買うなと言っていた。そうしたら15%増えてしまった。そこで、SRL名古屋研究所にIBADのパイロットプラントを作ってしまおうということになった。そこで高速レーザーやTFAも自由に使える。古河電工もNiで中間層を名古屋でやってくれと。名古屋をみんなのテスト場にして分業化を図っていく。昭和電線がTFAをやっているが、その成果を名古屋に持ってきて、試験を行う。むしろIBADを供給する側に回る。だからIBAD供給センターにしたいのだけれど、その前にテストセンターになるかも知れない。それはPhaseVの前倒しで、うれしい悲鳴。名古屋に2‐3億円ぐらいでパイロットプラントを設置する。

 ただ、問題はPLDが遅くてしょうがないこと。せいぜい数m/hrが現状。どうやって速くするか。高速になれば原料は安いから、すぐに安く出来る。10 m/hrぐらいいかないと、100 m作るのに100日も掛っては人件費ばっかりかかって大変だ。そこで後の新規プロセス、TFAが活きるかどうかにかかっている。

 だけど、アメリカのDOEは最初からなんでも「コストコスト」と言う。それは分かるが、そんなことを言ってもろくなことはない。最初はコストを考えずに、バンバンやった方が良いというのが我々の考え方。東京電力に言わせるとトンネル掘るのに比べ、線材のコストはいくらでもない。それでも、高速化と低価格化は重要課題。実際には高速化が出来れば低価格になる。

Multipleプロセス(一度に何本分かのテープを同時成膜する方法)も同時にやっている。幅広のテープを後で切る。切って弊害がなければ。保護膜まで付ければ大丈夫だと思う。これも割りが合えばの話しだが、ハステロイは硬いので出来るのではないか。

 最近Bi系の線材が良くなってきて、幅4 mm、厚さ0.25 mm、77 KでIc=120 Aぐらいで、今までの倍ぐらいになった。それに対抗しようと思ったんだけど、大変だ。磁場特性は123系の方がいいのだが、電力ケーブルは磁場が弱いので液体窒素温度でBi系と競争しなければならない。そうするとやはり幅1 cm、厚さは半分で150‐200 Aぐらい流さないと難しい。現状の記録ではTFA-MODで幅1 cmでIc=153 A(短尺)。PLDでも住友電工でトップデータは150 Aぐらいは来ている。

 フジクラに言わせると、NbTi線材でも引っ張る前までに大変な工程がある。それを考えるとテープはえらく簡単で一遍にできてしまうので良い。PLDは何台も揃えてやれば良い。IBADは室温でつけるために極めて自動化がしやすい。

 他に色々あるが、アメリカは2年遅れていると騒いでいる。このあいだのハワイワークショップは完全に日本の独壇場だった。日本は50‐60 m、米国は今でも1 mぐらいしか出来てない。やっぱり装置産業だからね。

Q 長くなって性能が落ちると言う点ではどうですか。

A 長くなってもLogで効くので心配ない。2次元モデルのパーコレーション・シミュレーションでは、SRL中村君らによると結構落ちない。3次元だともっと有利。今一番長いのは超電導になるものだと10〜15 mぐらい。それはフジクラがレーザーでちょっと溶かしたもの。

 PLDはターゲットが大変。交換機構がなかなかうまくいかないが、装置を箱型にしたことで随分広くなった。TFAは昭和電線で面白い方法を工夫した、塗布法。どぶ付けはダメだった。思ったより順調にいった。TFAは最初名古屋でやって、その技術が昭和電線にいった。多層膜は4研が担当。単結晶基板では、Jcは10 MA/cm2を越えた。顕微鏡で見ると、最初にざくざくだったのが、膜を形成してからどうして平坦になるのか。界面が効いてくる。

 DOEがコストコストって言うもんだから、ASCはMODだけになった。ところがMODは表面がデコボコ、液体からだから。2層をやったらもう絶対に出来ない、駄目だとなった。 Q ロスアラモスで進んでいるIBADは? ASCもSRLなみに行ったみたいですね。

A IBADは元々スタンフォード。ASCも単結晶ならできるが、線材だとIBADを使わないと難しいだろう。

 線材は高速化がまだちょっとわからないが、色んな方面から企業が総攻撃したのが良かった。SRLの基礎的なものの上に載って、色んなトライアルをした。その結果、色んな情報が集まって融合してくる。融合的研究。そういうことで線材の新年は明るい。新年中には100 mができそう。公式には50 mにしてあるが・・・。100 mから1 kmについては産業界がやるだろう。100 mで高速化ができれば実現可能だ。

 難しい物質をここまで手なずけるのは大変だった。

2.3  デバイス

Q Deviceの進展はいかがですか。

A これも面白い。高温超電導デバイスは始める前は全然見当もつかなかった。どんなJunctionをつくっていくか問題だった。積層型とランプエッジ型と。はたまたバリア材をなんにしたら良いのか等。そしたら日電が表面改質型と言うのをみつけた。プロジェクトがスタートしてすぐの話し。それで、日立もやる、東芝もやるって感じであちこちからいい結果が出た。分散型プロジェクトの良いところは、難しい物質のJunctionだから色んなところでやると色んな考えが出る。それが、表面改質型ランプエッジでは誰もが良い結果を出した。そういうことで物質にあった製法ができた。

 SRLも最近すごく良くなってきて、ちょっとびっくりするぐらい。100接合だったらばらつき6 %以下ぐらい、1000接合で8 %ぐらい。これはGround Plane無しのデータ。

 Ground Planeをつけて、それから絶縁層をつけて、超電導膜だから非常に難しい。リークが起きてしまった。色々苦労したがこれもうまい方法を見つけて、Ground Planeつきでも100Junctionで8 %は最近切った。だからGround Planeつきで基本計画を1000接合8 %に上方修正した。そしたら最近ではそれも達成できそうとなってきた。

3. 今後の展望

3.1 超電導エレクトロニクス

Q HTS接合の今後の見通しはいかがですか。

A 1000接合で5 %ぐらいだと相当の回路はできる。歩留まりは悪いけど。簡単なDSP(データ信号処理器)ぐらいはできる。1000接合で8%できたら、次は10,000接合にいく。10,000って言ったら相当なもの、本当のDSPになる。今考えているのはインテリジェントフィルター。

これまでのパッシブなフィルターに関してはアメリカのデュポンにはかなわない。インテリジェントフィルターではフィルターとHTSのADコンバーターとを組み合わせる。そうすると10,000接合でできる。2段冷却の冷凍機を分けて、一段目のところにフィルターを77Kで、コンバーターを30 Kにする。そうすると1つの冷凍機で付加価値がものすごく高まる。2段方式は考えなかったんだけれど、例えばHTSの回路とCMOSを70Kでやるとすごく性能が良くなる。これから色んなやり方が出てきそうなので楽しい。

Q インテリジェントフィルターはいつ頃できるのですか。

A これはまだまだ。これも例のお金でSRLに2インチのラインを作る。ステッパーやなんかは全部あるので、スパッタリング装置を増設する。2インチになると相当大きい。SRLの豊洲(SRL東雲)に集中していく。企業が人を出すといっている。それで結局ファウンドリーになると思う。各メーカーが設計を持ってきたらうちで作ってあげますと言うことになると思う。

 昨年は線材もデバイスもできてきて、非常に実りの多い年だった。だから今年はもっと楽しみ。だけど、ここまで15年掛かった。外から見てると早いかもしれないけど。やっぱり10年のもたもたが物質を材料にした。材料というのは目的に添ったもので、材料の基礎があそこでできた。今のDeviceにしても超電導層を重ねる時の絶縁層のリークがどうしてもうまくいかなかった。そこをSTO(チタン酸ストロンチウム)の薄い膜で絶縁層を挟むことでうまくいった。これは材料を相当やってないと出てこない。それから、表面粗度を抑えるためにYBCOにLaを少し添加すると非常に平坦な膜ができる。こう考えてみると、初めの10年はやっぱりもたもたやっていたようだけれども、この期間の基礎知識の集積がここに来て出てきたかな、という感じがする。

Q LTSのSFQプロジェクトはいかがでしょうか。

A もう一方で新しいLow Tcのプロジェクトは1万から10万集積を狙う。NECの研究室をSRLの分室にする。そうじゃないと人が集まらない。富士通や日立の人も日電の方にいって行う。プロセスだけ。LTSのプロジェクトは初年度5‐6億円位のプロジェクトになりそう。

 LTSのプロジェクトで、一番のネックは設計。SFQロジックは従来の回路とは考え方が違う。クロック周波数といっても場所によって位相がずれてしまう。インダクタンスLも形によって変わってくる。回路設計をしっかりやることで、一打逆転を狙う。

Q 所長は、SFQのルーターが有望と云っていましたが。

A 2×2の装置は5、6個でできるのかと思ってたらとんでもない、2200個。ルーターはなかなか大変だ。目標は36×36。ただ繰り返しだけなのだが・・・。

 だが、100GHzの技術をこれからやるのは実装が大変だと思う。Intelは20 GHzまでは半導体でやり、あとはSFQと言い出した。International Roadmap上にもいよいよSFQが出現してきた。そういう風にSFQをみんな認め始めた。やっておいて良かったと思う。

 昨年のISEC(超電導エレクトロニクス国際会議)で私が超電導サーバーをやると発表したところ、「日本はやるらしい」という話になって、米国DOEの担当者が日本のやっていそうなところを全部廻って歩いた。線材といいデバイスといい、相当激しいことになるかもしれない。

3.2 線材

Q 線材の展望についてはいかがですか。

A アメリカの電力危機に象徴されるように電力計画がめちゃくちゃで、日本と違って自然発生的にやってる。街ができるとそこに発電所ができて発電所があちこちにあって、送電網が非常に悪い。ゴア副大統領が提唱した光情報ハイウェイの電力版、「Inter-State電力Highway」が必要とされている。幹線だけ。2005年から20年かけて。それから原子力発電所も50基作ると言うとんでもない話。そうすると線材も膨大な量がいる。超電導でやろうという提案があったら、それに間に合わせろと言ってDOEが次世代線材にハッパをかけている。その膨大なマーケットを睨んでの話しだと思う。何千キロって、あっちは広いから送電網だってそんな簡単じゃない。

Q アメリカはなぜ送電網を超電導でやりたいのですか。

A  直流送電。遠距離だと直流送電が非常に有効。超電導は直流送電には最適。ACロスもない。

Q 大都市内の地下送電ならコスト的に見合うけれど、高架線だったらどうなりますか?

A それはどう言う風にやるかは見ものです。アメリカではもう高架線は住民運動でできない。人間がガンになるとかで、これでは大電力を送れない。そうするとハイウェイをやめるのか、どうするのか、そこが見もの。むしろ日本のマーケットはアメリカを見てる。

 だけど、日本でもデータ−センターやなにかがたくさんできると1つのビルにつき10 MW。10 MWを1つのビルにいれるのは大変で、100 Vだと10万Aになってしまう。室内送電もどこかにトランスを置いてやらないとできなくなる。そういう問題は日本にもある。

Q 線材で100mはPhaseUで達成予定。次の目標は1kmですか。

A それはもう産業界に任せる。むしろ膜製造の高速化、低コスト化が重要である。SRLはプロセスとか開発を指示する。目標ができてるからやりやすい。光ファイバーでも2‐3万円はした時代があった。線材のコストに関してDOEは1 kAm当り$10。今、Bi系で$100にしたいと言っている。ASCのBi系が現状で$250。今、ASCは大工場を建設中だ。年産1万km。今調査しているのは電動機などの回転機。回転機を作るとものすごい量の線材がいる。すぐ数千キロとかなってしまう。すると原子力潜水艦用のモーター35 MWぐらいのものができる。今だったら大きな部屋1つ分ぐらいの大きさが、超電導モーターになると一抱えぐらいの寸法になる。船はなんといっても面積がものを言う。船舶は燃料電池で発電して、超電導電動機を回すと言うのが理想だ。

最近GEが発電機を始めた。ちょっと気になっている。GEは発電機の神様。HTSでいくかもしれない。Bi系で線材ができれば。ASCで1000馬力のモーターを作った。潜水艦用のモーター。それをGEが発電機にしようとしている。

電動機は省エネより、空間的な小型化のインパクトが大きい。どちらかと言うと乗り物になる。

3.3 その他のプロジェクト

Q ところでシリコン単結晶引上げ用のマグネットプロジェクトは終わったのですか。

A ええ、もうBi系線材の性能が良くなったので、前のものより本当に小さくなって。シリコンの不況で大型単結晶への移行計画は遅れてる。それに間にあわせたい。今の問題点はコストだけで他は問題ない。高温超電導磁石はLTSでは考えられないくらい速く励磁できる。安定してるから。これがすごく便利。磁石の方は全部終わったんだけれども、信越半導体は見せてくれない。結晶屋の秘密主義で絶対に入れない。大変な話。結晶成長はノウハウの塊で絶対に他人を入れない。

Q するとそのシリコン単結晶用高温超電導磁石プロジェクトと言うのは、スペックを満たして成功となったわけですか。

A その意味ではもう成功している。運転試験、磁場の上げ下げとか急速励磁とかもとっくに終わっている。

Q Maglev(リニアモーターカー)用高機能Bi系線材は後1年ですか。

A ぎりぎりだね。Maglevが一番難しい。永久電流がどれくらい流れるかとか、繋ぎ目があると難しくなるからね。Nb系はすごいね。一本で間に合う。1日で減衰が1‐2%でも、JRは要求がものすごくきつい。測定の精度は「マイクロ」ボルト/cmじゃなく、「ナノ」ボルト/cm。

Q Maglevは少しぐらい永久電流が減衰しても、どうってことはないのでは。

A JRの要求はものすごく厳しい。絶対妥協しない。やはり人の命預かると。いきなり乗り物にぶつかったのは大変だった。妥協しないのは理解できるけど。ジョイントが沢山、何十か何百かあって、そちらで決まってるとどうしようもない。フラックスクリープだけじゃない。実はジョイントだけで減衰が5%/dayくらいいってしまう。難しいね。n値はできるだけ高くしてくれとかね。今までの線材とはちょっと違う。n値は酸化物超電導体では一番弱いところだからね。10とか20ぐらい。ぎりぎりのところまでやっている。マグネットの問題点は完全にMaglevの方に移っている。あれができればなんでもできる。一番厳しい。

Q 永久電流の問題に加えて、機械的強度、寸法精度も厳しいですね。乗り物は重量当りで効きますからね。

A  Maglevには色々苦労した。いまのNbTi磁石の中にすぽっと入れて一切変えてはならんと言うのだから難しい。大きさも、外側を一切変えないで中だけと厳しい。マグネット応用の為にも、ピン止め機構等の基礎研究は必須と思う。それと40 Kの永久電流スイッチ。LPEでTcを下げた超伝導体を作る。SRL基礎部で不純物の研究をしていてNiとかを混ぜると良いとわかってるから、それでやったら40 Kぐらいで綺麗に落ちるように制御できる。基礎研究は一つ役に立てば良い。永久電流スイッチが成功したらMaglev用に適用できる。

3.4 まとめ

Q 今後の超電導開発の見通しはいかがですか。

A 展望から言うと、相当明るくなってきた。2005年ぐらいに実を結ぶかも。それで発見以来20年ですよ。早いと言うか遅いと言うか。

 トランジスタは1947年暮に見つかって、トランジスタラジオが始めてできたのは55年ごろ。マーケットがあるといっても今に比べれば微々たるものだった。1960年にLSIのキルビー特許。256ビットのDRAMが出たのが70年。だから20年以上かかっている。72年にマイクロプロセッサーが出た。だから70年から75年の間に今の製品はほとんど出揃った。光ファイバーもその頃。だから半導体は、まぁ、25年かかった。それに比べて、マーケットがどこにもないのに超電導は良く頑張ってきた。国の援助もないとできなかったが。そろそろ本格的に色んな応用を考えないと。

Q 所長がおっしゃった、2005年ぐらいにTake offすると云う話ですね。一般的な応用を考える時には、みんなはどういうようにやったら良いでしょうか。

A メーカーでしょうね。だけど大学の先生も案を出せばチャンスは実はあるんじゃないか。初期の話しなので。

PhaseUに入る前は暗中模索だった。3年間ぐらいね。やっと順調に行ったところでしょう。やはりゆるい集中とゆるい分散が良かった。役人の論理ではすぐ集中しろと言うが、初期の頃は集中しようとしても、そうするとみんなが同じことを考えるからダメなんだ。やはり各企業がそれぞれの発想で、違ったアプローチをして開発していくと言うのが大切だと思う。アイディアは1つの集団に大体1つか2つかしかできない。他は潰れてしまう。半導体みたいに。設計がダメだとかね。1つの集団の中にいると潰されてしまう。それが分散してると芽が伸びる可能性もでる。それからまとめ役(SRL)が一緒に走れた。それが良かった。

PhaseVも前半の5年は集中と分散をやって、後は本格的なところはメーカーに任せる。産業界に。

Q 超電導という技術は全く新しいので、何にどうやって使ったら良いか、多くのメーカーには分り難いと思われます。その知識の普及をしないと用途開発がなかなか進まないのでは。

A だから現物を見せないと。特にトップに。色々なものでデモンストレーションをしてね。お役人が変わるたびに、毎年毎年、超電導は何かと説明するのは大変だ。わかるころ辞めてしまうから。もう少しで市民権は得られるだろう。しかし忍耐は要る。半導体は途中から商品というマーケットが有ったが、超電導は低温が必要だからほとんどゼロの状態でやってる。だから大変だね。予算も15%増えるとか、超電導の市民権も広がってきている。風向きとしてはフォローの風が吹き始めている。

総括的に云えば、大体狙ったものはうまくいった。SFQが思いの他うまくいっている。次世代線材はすごい大決断だったが、そのあとはたった2年と早かった。通算15年やってきてほっとしている。87年10月にSRLが発足。実際には86年の12月から大騒ぎ。今は2002年。よく続いてきた。困難期をよく乗り越えてきたと思う。展望で言えば2005年ぐらいにマーケットにポツポツと。前から言ってるようにちょうど半導体とかハードディスクが飽和する時期が2005年。それと超電導の出番とちょうど時期が重なる。もうそのチャンスは来たといえる。

事務局: 長時間に亘る新春対談にご出席いただきまして、有難うございました。今後の超電導技術開発プロジェクトの成功をお祈り致します。