SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.6, Dec. 2001

7.磁気・電磁泳動で液中微粒子の分離法開発
_阪大理学部_


 大阪大学大学院理学研究科化学専攻の渡會仁教授のグループは、磁気泳動および電磁泳動を用いる新しい微粒子分析法を提案した。一つ目は、微粒子の磁気泳動フロー分画法である。マイクロメータレベルで設計された高勾配磁場中において、そこに設置された断面が100x100μmのシリカキャピラリー内に微粒子を含む塩化マンガン水溶液を送液すると、媒体からの磁気浮力によりB(dB/dx)=0の位置に微粒子がトラップされる。媒体の流速を連続的に増大させると、小さな微粒子から順に磁場トラップを逃れて流出し、サイズによる分画が達成された(図1)。

 この方法は、血球の分画に応用できることが示された。二つ目の方法は、常磁性イオンを含むマイクロ微粒子の磁気泳動速度より、そのイオンの濃度(物質量)を決定する方法の提案である。磁場勾配中のマイクロ液滴の磁気泳動速度より、一個の液滴中の10 attoモル(10−17 mol)レベルの定量が可能である。この方法を磁気泳動velocimetryと呼んだ。これらの方法には、Nd-Fe-B磁石(0.4 T)の端部に発生する磁場勾配(400 T2m−1 )、Nd-Fe-B磁石と鉄のポールピースを組み合わせたときに生じる磁場勾配(1800T2m−1 )、および10 Tの超伝導磁石と鉄のポールピースにより生じる高勾配磁場(50000 T2m−1 )が使用された。磁気泳動による分離法は、電気泳動と異なり、熱の発生を伴わないので、生体微粒子に特に適している。三つ目は、電解質溶液に均一な磁場と電場を印加したときに生じる微粒子への電磁浮力を利用した方法である。この時の泳動速度は、微粒子半径の二乗に比例するので、微粒子間のサイズ分離に利用できる。また、電流の方向を切り替えることにより、キャピラリー壁への微粒子の吸脱着を電磁浮力により制御することができる。この方法により、微粒子と壁の間のピコニュ-トンレベルの相互作用力を測定することができ、新しい液体中の単一微粒子の非接触的吸着力測定法として、細胞や微粒子素材のキャラクタリゼーションに利用できそうである。

 クロマトグラフィーや電気泳動に代表されるイオンや分子の分離分析法は、今日、すばらしい発展を遂げているが、これらの方法を、40 kbp以上のDNAや分子量10万以上のタンパク質の分離分析に応用することは極めて困難である。一方、今日、環境試料や生体試料中の微粒子をそのままの状態で一個一個分離し、分析したいという要請は社会的にも極めて高い。この要請に応える一つの方法として、ここで紹介した磁場と電場を用いる新しい顕微泳動分析法は、有望な方法と言えよう。

         


図1 0.6M 塩化マグネシウム水溶液中のポリスチレン微粒子の磁気泳動フロー分画法。
図中縦の点線は、流出に要する流速の計算値。

(マイコー)