SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.6, Dec. 2001

6.磁気分離による埋立浸出水処理の実証実験が順調
_東京都立大学_


 21世紀はあらゆる分野において環境低負荷型のシステムであることが求められる。廃水処理分野においては直接的に環境へ与える影響が大きいことから、技術開発が盛んに行われている。既存の廃水処理法では富栄養化の原因となる窒素・リンの除去が不十分であることや、近年その影響が指摘されている内分泌攪乱物質(環境ホルモン)に対しては未対応の状態であるなど、それらの対策が急務とされている。既存の廃水処理は活性汚泥法をはじめとする生物処理や薬品を用いた化学処理の組み合わせが主流である。活性汚泥法では水処理の結果として多量の汚泥が発生し、これが産業廃棄物の2割以上を占めることも大きな問題となっている。

 東京都立大学工学研究科電気工学専攻の渡辺恒雄教授・井原一高学術研究員らの研究グループでは、平成11年度開始の日本学術振興会・未来開拓学術研究推進事業の一環として、磁気分離を用いた新規の水処理システムの開発を目指して研究を行っている。同グループが考案した廃水処理システムは微生物や薬品を全く使用しない代わりに電気分解と磁気分離を組み合わせたもので既存の処理法とは全く異なっており、窒素/リンの高効率除去、電気で制御可能、排出汚泥が少ないといった数々のメリットがある。

 渡辺教授らは、考案した水処理方法を用いて産業廃棄物埋立地由来の浸出水に対し実験室スケールで適用したところ、水質の状態を示すCOD(化学的酸素要求量)が現在の処理システムによる放流水質と同レベルにまで低減できることを平成12年度までに確認した。これを受け、東京都中央防波堤埋立処分場(ユリカモメ線テレポート駅沖合い)に実証規模の廃水処理装置を設置し、平成13年9月より12月中旬まで実証試験を行っている。

 実証試験装置の設計処理水量は毎時100Lで、排水処理場に対し約2,500分の1。システムの主な構成要素は、電解槽と直流電源、生成させた磁性粒子を沈降させるための沈降槽そしてこれらの磁性粒子を廃水中から分離するための磁気フィルタを装着した超伝導磁石である。超伝導磁石は最大磁場10[T]、ボア径10[cm]の標準タイプである。実験装置には原水を貯める約450Lの原水タンク、処理水を貯める同容積の処理水タンクを付置している。

 現地実証実験の当初は、処理が設計通り実行可能になるよう装置の細かな改良および確認試験を繰り返し、試験開始後約1ヶ月後から本格的な試験にこぎつけた。その結果、CODにおいて90%以上の除去が安定して得られ、既存の処理システムによる放流レベルを大きくクリアし、茶褐色の埋立浸出水が無色透明になった。アンモニア態窒素は10mg/L以下、全リンは0.5mg/L以下にまで低減が可能で、一部の内分泌攪乱物質も分解処理できることを確認した。処理にあたっては電気分解のパラメータや磁場強度が水質を大きく左右することも把握した。

 環境省は窒素とリンを総量規制の対象とすることを2001年11月に明らかにした。同研究グループでは磁気分離を用いた廃水処理システムが新しい基準にも対応できるよう検討を行っている。この規制は既存の廃水処理システムでは対応が難しいことから、本処理法の実用化およびその適用が期待される。同グループでは、実験の最適化を進めて、電力コストの低減を図ると共に、企業との実用化研究へのステップに入ることを目指している。

 11月中旬に本実証試験装置の外部見学会が行われたが、参加した東京大学院生開発徹君によれば、「10畳くらいの小さなプレハブの部屋の中にちょこんと設備が納まっていることにまずびっくりした。この設備は都立大学特別研究員の井原一高氏と大学院と学部学生2-3名によってこの間ずっとメンテナンスされてきたと聞いてまたびっくりした。この埋立地から排出される浸出水処理のために、現在稼動している第三排水処理場では、この浸出水に対して担体投入型生物脱窒素処理(バイオエルグ)や凝集沈澱処理などの化学的・生物的処理を施している。そのために大量の薬品が毎日必要とされ、また大量の二次生成物を排出しているという。この磁気分離では消耗するのは鉄板だけで、しかも、実験開始後一回も鉄板を変えていないとのことであった。これは環境技術として本質的に優れていると感じた。処理前の水と処理後の水を並べて見ると黒褐色の液体が澄んだ水になったことが一目でわかるほどであった」と印象を語った。

(metropolitan-magsep)