SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.6, Dec. 2001

3.理想的な特性を持つ高温超伝導体ジョセフソン接合の作製法を開発
_名古屋大学_


 名古屋大学工学研究科の早川尚夫教授、藤巻朗助教授のグループは積層型構造に特に有効な高温超伝導体ジョセフソン接合の新しい作製法を開発した。この作製法を用いるとジョセフソン接合にしばしば見られた超伝導ショートを抑制できるほか常伝導抵抗など接合パラメータも制御可能という。

 高温超伝導体ジョセフソン接合の開発は、将来の移動体通信基地局に使うAD変換器などを目指し活発に研究が進められている。現在は、素子特性のばらつきが小さいという理由から、薄膜を斜めにエッチングした斜面にジョセフソン接合を形成するランプエッジ型ジョセフソン接合が主流となっている。また、その作製法は、エッチングした際に形成されるアモルファス層がその後のアニールの過程で絶縁層に再結晶化する性質を利用した界面改質法が多く用いられている。しかしながら、回路応用を考えると、回路レイアウトの容易さ、浮遊インダクタンスの小ささなどから、低温超伝導体で技術の確立されたNb/AlOx/Nb接合と同じ積層型構造が望まれている。ところが、界面改質法を積層型構造に適用すると、ジョセフソン電流成分以外に超伝導ショートによる電流が必ず含まれることが問題となっていた。

 早川教授らはこの超伝導ショートは、アモルファス層が再結晶化する際に大部分は絶縁体になるもののごく一部が超伝導体に戻るために起こると考えた。すなわち、ジョセフソン接合の絶縁体に一部小さな穴が開くいわゆるピンホールが形成されると推測した。そこで同グループでは、超伝導体への復帰を阻害するように、アモルファス層にPr原子やGa原子を添加することを試みた。これは、アモルファス層の一部がたとえ高温超伝導体の結晶構造へ戻ったとしても、元素置換が起こり超伝導化しないという発想に基づくものであった。

 「結果は予想以上にドラスティックであった。ほんのわずかな置換元素の添加で、すべての接合から超伝導ショートと見られる電流が消え、理想に近い電流-電圧特性が得られた」と藤巻助教授は話す。図1が典型的な電流-電圧特性であるが、準粒子特性は原点を向いており、超伝導ショートによる余剰電流は見られない。磁場特性も典型的なフラウンホーファパターンを示し、接合面内を均一にジョセフソン電流が流れていると同グループでは自信を深めている。

 「結果は予想以上にドラスティックであった。ほんのわずかな置換元素の添加で、すべての接合から超伝導ショートと見られる電流が消え、理想に近い電流-電圧特性が得られた」と藤巻助教授は話す。図1が典型的な電流-電圧特性であるが、準粒子特性は原点を向いており、超伝導ショートによる余剰電流は見られない。磁場特性も典型的なフラウンホーファパターンを示し、接合面内を均一にジョセフソン電流が流れていると同グループでは自信を深めている。

 「ショートの抑制よりも、特性電圧いわゆるIcRn積の改善の方を注目すべきだ」と早川教授は図1の電流-電圧特性の別な意味を強調する。臨界電流密度が1.7 kA/cm2でIcRn積は2 mV、この値はランプエッジ型接合よりも1桁大きい。PrやGaがトンネル障壁内の局在準位密度を下げ、接合のシャントコンダクタンス成分を下げているのがIcRn積増加の原因ではないかと同グループでは推測している。これまで積層型接合は、臨界電流密度を大きく取れないことから特性電圧がランプエッジ接合より小さく、この点が応用には不利と言われてきた。同グループの今回の成果は、この主張を覆すものでその意義は大きい。また、元素の添加量で接合抵抗などの特性も制御できるという。「ばらつきの問題、高度な積層技術などまだまだ克服すべき課題は多い。しかし、制御性、IcRn積、レイアウトのし易さ、これらの点を考えると、今回の成果は回路応用に向けた接合開発の方向性に大きな転機を与える可能性がある」早川教授は今回の成果をまとめてこのように話していた。

                             

(大菜)