SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.6, Dec. 2001

20. 70 K小型パルスチューブ冷凍機を開発
_富士電機梶A兜x士電機総合研究所_


 パルスチューブ冷凍機は、膨張機として可動部を持たず、低振動で高信頼性を実現できるため、幅広い用途が期待されている。特にスターリング型パルスチューブ冷凍機は、小型・軽量・高効率である特徴を活かし、民生用としては通信デバイス等の高温超伝導体冷却や医療用等に、宇宙用としては赤外線デバイス等の冷却用への応用が有望である。富士電機鰍ニ兜x士電機総合研究所では、これまで人工衛星搭載用として冷凍出力1.4W at 70Kのスターリング冷凍機を開発してきた。この冷凍機は長寿命化を狙い50,000時間の信頼性を確保している。今回、開発されたパルスチューブ冷凍機はこのクラス(冷凍出力2.5W at 70K)で最も小型で、寿命も人工衛星用の技術を活かして50,000時間を達成した。これはスターリング冷凍機での高信頼性技術をベースとし、パルスチューブ技術との融合に成功したものである。この冷凍機は小型、低消費電力であり、かつ、メンテナンスフリーの時間が長いため、デバイスなどの冷凍に非常に便利と思われる。

 基本コンセプトとして、パルスチューブ部は低温端での折り返しのないインラインタイプを採用した。低温端で折り返しがあるタイプ(たとえばU字リターンや同軸リターン)では、パルス管の低温部での流れに偏りが発生し、十分な冷凍性能が得られないためである。また、位相制御機構はイナータンスチューブとバッファタンクからなるインピーダンス系を採用した。これは、ダブルインレットと等価の効果を有しながらDCフローによる温度の不安定性を引き起こす恐れがなく、安定な系を提供できる。

 圧縮機は高信頼性,小型化のほか低コスト化にも重点をおいた。まず、構造は人工衛星用で開発したスターリング冷凍機の圧縮機をベースとした。駆動部は可動コイル型対抗ピストン方式とし、ピストンとシリンダ間は20〜30mm程度の微小スキマを維持したクリアランスシールで構成した。ピストンを支持するバネは、フレクチャーベアリングである。50,000時間の信頼性を確保するためには、10乗回以上の繰り返し応力でも疲労限界を超えない設計が必要であり、そのためのバネ形状の最適化を図った。低コスト化については、部品点数の低減や部品の一体化,加工方法の見直しを行った。

 開発した小型パルスチューブ冷凍機の能力は、運転周波数50Hzにて動作させたとき冷凍出力2.5W at 70K(環境温度25℃にて),電気入力120Wである。環境温度は、-10℃〜50℃の範囲で使用可能である。また寸法は、圧縮機が外径92mm長さ190mm,冷凍機高さが300mmで小型化を達成した。総重量は8.5kgである。図1に概観写真を示す。冷凍機への供給電力を一定にして冷却性能試験を行った結果を図2に示す。電気入力120Wの運転では、比出力(電気入力/冷凍出力)が70Kで48W/W,80Kで34W/Wであった。

 なお、開発に携わった富士電機総合研究所・機器技術研究所の保川幸雄氏は「この開発は、パルスチューブの性能を出すのに最も苦労した。小型冷凍機の場合、計算と合いにくいため、実験により性能を詰めていったが、実験のパラメータが多く最適化に時間がかかった。しかし、圧縮機の小型化はひとつのひらめきと、綿密な解析により上手くいったと思う。今後、小型パルスチューブ冷凍機が高温超電導デバイスの冷却に広く利用され、高温超電導と共に冷凍機が世の中で認知されることを望んでやまない」と述べている。

 


図1 小型パルスチューブ冷凍機概観写真


図2 冷却ロードライン

               

(在家雲水)