基本コンセプトとして、パルスチューブ部は低温端での折り返しのないインラインタイプを採用した。低温端で折り返しがあるタイプ(たとえばU字リターンや同軸リターン)では、パルス管の低温部での流れに偏りが発生し、十分な冷凍性能が得られないためである。また、位相制御機構はイナータンスチューブとバッファタンクからなるインピーダンス系を採用した。これは、ダブルインレットと等価の効果を有しながらDCフローによる温度の不安定性を引き起こす恐れがなく、安定な系を提供できる。
圧縮機は高信頼性,小型化のほか低コスト化にも重点をおいた。まず、構造は人工衛星用で開発したスターリング冷凍機の圧縮機をベースとした。駆動部は可動コイル型対抗ピストン方式とし、ピストンとシリンダ間は20〜30mm程度の微小スキマを維持したクリアランスシールで構成した。ピストンを支持するバネは、フレクチャーベアリングである。50,000時間の信頼性を確保するためには、10乗回以上の繰り返し応力でも疲労限界を超えない設計が必要であり、そのためのバネ形状の最適化を図った。低コスト化については、部品点数の低減や部品の一体化,加工方法の見直しを行った。
開発した小型パルスチューブ冷凍機の能力は、運転周波数50Hzにて動作させたとき冷凍出力2.5W at 70K(環境温度25℃にて),電気入力120Wである。環境温度は、-10℃〜50℃の範囲で使用可能である。また寸法は、圧縮機が外径92mm長さ190mm,冷凍機高さが300mmで小型化を達成した。総重量は8.5kgである。図1に概観写真を示す。冷凍機への供給電力を一定にして冷却性能試験を行った結果を図2に示す。電気入力120Wの運転では、比出力(電気入力/冷凍出力)が70Kで48W/W,80Kで34W/Wであった。
なお、開発に携わった富士電機総合研究所・機器技術研究所の保川幸雄氏は「この開発は、パルスチューブの性能を出すのに最も苦労した。小型冷凍機の場合、計算と合いにくいため、実験により性能を詰めていったが、実験のパラメータが多く最適化に時間がかかった。しかし、圧縮機の小型化はひとつのひらめきと、綿密な解析により上手くいったと思う。今後、小型パルスチューブ冷凍機が高温超電導デバイスの冷却に広く利用され、高温超電導と共に冷凍機が世の中で認知されることを望んでやまない」と述べている。
図2 冷却ロードライン
(在家雲水)