SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.6, Dec. 2001

18. 磁気シールド不要の心臓磁場測定用高温超伝導SQUID装置
"Open-SQUID" を試作
_大阪大学、住友電工ハイテックス社の共同開発_


 心臓疾患の診断ツールとしては,心電計や超音波エコー心電計が一般的に使用されている。しかしながら,これらは電極の装着という煩わしさにもかかわらず,十分な信頼性にかけている。SQUIDは心臓から発する微弱な磁気を非接触で検出できるため、定期検診や心臓疾患検出用機器として新たな手段を提供するものと期待されてきた。

 心臓磁場は地磁気を含む環境磁場の10-6倍程度と非常に小さいため、従来の心臓磁場測定用SQUID装置は、環境磁場を遮蔽する必要があった。このため通常シールドルームやより簡便には円筒形シールドが使用されている。これらのシールド装置は非常に高価であり、SQUIDの心磁計測装置をしきいの高いものにしていた。

 今回、大阪大学と住友電工ハイテックスの共同開発により試作されたSQUID心磁計測装置 "Open-SQUID"システムは、このシールドを不要とした日本初のシステムである。さらに図1のようにコンパクトに仕上げることで可搬性をもたせたものとなっている。これにより、1台で定期健康診断からベッドサイドの検診や医師の検診まで幅広く対応できるようになった。

 試作されたOpen-SQUIDシステムは、酸化物超伝導体HoBa2Cu3Oyによる4つのSQUIDを用い、1つが心磁信号検出マグネットメータ、残り3つが環境信号参照用ベクトル型マグネットメータを構成し、この2つのマグネットメータの差分出力を得る1次の信号型グラジオメータになっている。参照側をベクトル型とすることで、検出用SQUIDと参照用SQUIDの機械的な平行度のずれを補正することができる。また、検出用と参照用のSQUID間距離は約8cmで、微弱な心磁信号を参照側でできるだけ打ち消さない距離設定になっている。

 実際の測定結果は図2のようになっている。測定は、0.5Hzから75Hzのバンドパスフィルタと60Hzのノッチフィルタを用いている。主な雑音は商用電源からの60Hzとその高調波である120および180Hzの信号である。この出力信号に対しソフトウエアにより120Hzおよび180Hzのノッチフィルタ処理を施し、さらに20回の積分平均処理を施すことで、図3に示す明瞭な心磁波形が得られている。60Hzに対する同相除去比は約30dBと幾分低めであり、このため上記のソフトウエア処理が必要になっている。商用電源からの雑音はその発生源が比較的装置の近くにあるため検出部付近に作る磁界が不均一となりまた強度も強く(mTオーダー)その変化も激しいため、除去は不完全なものとなるようだ。一般にSQUID計測器の雑音はSQUID自体の雑音が問題とされることが多いが、現状のシステムを見る限り、シールドレスでの使用に関してはSQUID自体の雑音より環境からの磁気雑音がまだまだ大きな問題であることがわかる。

 今回の装置でわかった課題の大きなものは2つある。一つは検出信号と参照信号の差分の微調整が煩わしいことと、もう一つはSQUIDのFLL回路が、しばしばロックが外れることである。手動による差分微調整ではその値の最適化が困難であり、実際の現場で医師に調整の手間を取らせることはできない。また変動する環境雑音磁場にも十分対応できにくい。そのため、現在適応フィルタを応用した自動調整システムを開発中である。欧州でSQUID心磁計測システム開発の中心人物であるZaidel教授も本システムを見学した際、この自動調整システムは絶対必要な機能であり、非常に興味深いと述べていた。また、FLL回路のロックが外れる原因は急激な環境磁場の変化と推測されており、これに対してはアクティブノイズコントロールと呼ばれる手法で対策が試みられている。

 今後は冷却システムとして現状の液体窒素から冷凍機の使用の検討などにより、コンセントに差し込めば測定できるシステムとして仕上げ、医療現場への早期導入を目指している。

(Reference K. Sakuta, et.al., ISS2001 14th Int. Symp. Superconductivity, FD-24)

     


図1 試作SQUIDシステムの外観


図2 試作SQUIDの測定結果


図3 試作SQUIDの心磁波形(フィルター平均化処理後)

               

(wani)