Cu-1234については、その潜在能力を探るため、産総研の伊豫彰、鬼頭聖両氏と、東海原研の笹瀬雅人、岡安悟両氏らの協力下、バルク材料に対して、中性子線照射、重粒子線照射によるピン止め効果の研究が行われている。今回の結果は、重粒子線照射試料の交流磁化率から得られた。柱状ピン止め中心によって高磁場下でJcが向上するいわゆるピーク効果が認められ、そのJcのピーク位置が90 Kでは13 T、85 Kでは14 Tを越えている。「測定不可能だが、単純外挿では77 KのHirrは30 Tをこえるのではないか」とCrisan氏。もっとも「Hirrの定義は、なんに応用するかで異なる。磁束融解磁場という捉え方をしている」とも付け加える。ちなみに、独のKarlsruhe大Kupferらが報告するNd-123でのHirr=14 Tが77 Kにおける現在のレコードとなっている。グループを率いる伊原氏は「今回は試料の量も少なく低磁場でのJcが低い。応用に結びつく数字であるかまだ判断できる段階ではない」と非常に慎重だ。その一方で「Cu-1234でのピン止め技術は未開発であり、やりようはいくらでもある」とCrisan氏の鼻息は荒い。
ASMM2D 2001でベストポスターに選ばれた同グループの薄膜作製チーム(Athinarayanan Sundaresan(CREST)、聶 家財(CREST)、Petre Badica(ルーマニア国立材料物理研)、藤原真吾(東理大 基礎工連携大学院生)、浅田秀人(東理大基礎工連携大学院生)、平井学(東理大理工大学院実習生)各氏ら)と協力して、タリウムを含む薄膜で、かれのアイデアであるナノドットを利用した柱状欠陥によるピン止め中心導入でJcの一桁近い向上を実証した経験(Appl. Phys. Lett. 印刷中)が自信の裏づけとなっている。プロジェクトも大詰めに近づき、次世代材料の開発にむけ、グループの奮闘は続いている。
(じゃもが)