これは、今までと同様にFET 構造を作成し、ゲート電極に絶縁耐圧ぎりぎりの高いバイアス電圧を印加してキャリアを誘起したもので、ソース-ドレイン間の抵抗減少を測定したもの。従来はホールが格子欠陥によって注入されるためにキャリア濃度の制御ができなかった。それだけに、こうした化学的キャリア注入が難しい系に対してFET構造による物理的キャリア注入が銅酸化物高温超伝導体に対しても効果的であることを改めて証明したといえる。すでに、日本でも数年前に銅酸化物へのFET構造によるキャリアドーピングが通産省のプロジェクトの一環として試みられたが、超伝導は誘起されなかった。
今回の報告では電子ドープで最大34K、ホールドープで最大89Kの転移温度が得られている。従来、この系ではSmith らによりNd 置換による電子ドープでは 40Kで、また東らにより格子欠陥によるホールドープでは110Kで超伝導となることが報告されており、ほぼ一致する結果である。CaCuO2 単結晶薄膜はフランスのグループ(Lagues et al)によりSrTiO3(100)単結晶基板上に MBE で作られたもので、その上に抵抗測定用の白金電極が取られ、ゲート絶縁膜のAl2O3、金のゲート電極と積み重ねてFET構造が作られている。Al2O3 はスパッタによって作られたという以外の記述はなく、また記載されているグラフにもドープ量が記載されているだけなので、そのドープ量計算の根拠はわからない。おそらく前回の梯子系超伝導の報告と同様に500? 程度のアモルファスAl2O3 絶縁膜を用い、CuO2 層一層に全てのキャリアが注入されたとして計算しているものと思われる。しかし詳しい報告ではないだけに、例えばキャリア計算の際にCaCuO2表面で起きる界面トラップ分のキャリアは差し引いて計算されているのだろうか、などといった詳細については今後の報告に期待するしかないように思われる。
前号の梯子系(1次元的な電子構造を持つ)にこの無限層系(2次元の電子構造)と、銅酸化物でも電場誘起のキャリア注入が可能になったことで、化学的にキャリア注入が出来なかった多くの母物質で超伝導転移温度の記録が更新される日も近いかもしれない。
(/J)