一方、C60以外の他のフラーレン(C70、C76などのいわゆるハイアーフラーレン)における超伝導発現に対しての興味から多くのケミカルドーピングが試みられていたが、その確たる証拠は得られていなかった。しかし、今回、電場効果ドーピングによってC70単結晶において、ついにハイアーフラーレンでも初の超伝導が観測された。そして、これもまたベル研究所のSchonらである(Nature vol 413, 831 (2001)。
K4C70が金属的な電気伝導度を示すことは、C70の最高非占軌道(LUMO)が4重縮退していることから説明されているが、K4C70、C70どちらも1.8Kの低温まで超伝導は確認されていない。Schonらは水素気流中でC60と同様の条件でC70単結晶を気相成長させた。X線回折の結果六方最密充填していることが確認され(a = 10.602 Å、c = 17.263Å)、理想的なc/a(=1.63) に近い値となっている。電場効果ドーピングを行うために、C70単結晶に金を堆積しソースとドレイン電極を形成し、さらにアルミナを堆積することで絶縁層を形成し、最後に絶縁膜の上に金を堆積することでゲート電極とした。
ゲート電極に負の高電圧をかけることでC70単結晶の最上層に高濃度のホールをドープすることができる。電気抵抗率の測定から7Kから抵抗率が急激に減少し6Kではその半分の値となった。磁場下では抵抗率の減少は確認されなかった。臨界磁場からコヒーレンス長は40Å程度と見積もられ、化学・電場ドープされたC60と同程度である。ドープする電子密度によってTcが変化することも確認され。電子密度が3個/C70以上で超伝導を示し、4個/C70で最高のTc(7K)、5.6個/C’70ではTcは再び下がった。
電子密度4個/C70はちょうどC70の最低非占有軌道を半分埋めることになるが、バンド計算や光電子分光の結果からC70の最低非占有軌道は三重縮退していると考えられているので、2/3埋まった状態で最高のTcが現れていることになる。C60では1/2埋まった状態が最高のTcを持つことを考えると、この違いは結晶構造がの差によると考えられる。小さなC60の方がTc(11K)が高いことは分子内の電子-フォノン相互作用の減少という理論的予測とも一致する。しかし、状態密度やクーロン相互作用の大きさ等のその他の効果も含めて議論せねばならないであろう。
C60以外のフラーレンで超伝導は未だ観測されていない。今回の結果は他のフラーレンでも高いTcを持つ超伝導の発現が期待できる。計算によれば、電子-フォノン相互作用はπ電子の密度の低下とケージの曲率の増大とともに強くなることが予測されている。
(Nimrod)