SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

8.ベル研FET銅酸化物にも応用 ―梯子系で電場誘起超伝導―


 SchonらによるFET(Field Induced Transistor)超伝導が、ついに銅酸化物にも応用された。9/28刊行のScience 293、(2001)2430で、J.H.Shonらは2本足の梯子型結晶構造を持つ[CaCu2O3]4に、これまでと同様Al2O3のゲート絶縁膜を通じて電場印加によるキャリアー注入を行い、最高14 Kの超伝導を発現したと報告している。ついに、有機物だけでなく、FET構造によってキャリアを誘起することを利用した超伝導発現が、無機系物質に及んできた。

 この転移温度は、すでに上原らによって発見された、よく似た構造の(Sr、Ca)14Cu24O41バルクにおける圧力下での超伝導転移温度の最大値とほぼ一致している。今回の[CaCu2O3]4物質はフランスのグループ(Lagues et al.)によってMBEで作られた膜(ただし梯子方向はtwin)で、その上にスパッターによってAl2O3膜がつけられている。Al2O3膜はアモルファスなので、もちろんエピタキシャルではない。Al2O3膜の誘電率は120 nF/cm2で、そこに最大150Vの電圧をかけている。これは、これまでにSchonらが報告している185 nF/cm2、 300 V (=56 μC/cm2)という、Al2O3の耐電圧の世界記録を軽く5倍も更新する(計算上はAlやOの原子位置が平衡状態から0.数Å動く)結果に比べればmodestなものの、やはり大きい。これまでのように、電場に対して臨界温度Tcをプロットしているが、150 VあたりでTcが最大になり、その後減少に転じている。彼らの相図はいつも同じように山の右側(overdope側)が切れているのであるが、電圧が異なるにもかかわらず相図上の同じところで絶縁破壊しているとは考えにくいので、overdope側には興味がなく測定をやめているのであろうか?印加電圧をキャリアーの体積密度に変換するには、界面から垂直方向にどれだけキャリアーがたまっているかを見積もる必要があるが、本文中で「ほぼ梯子面一層」と述べられており(その根拠は示されていない)それで換算するとCu1個あたり約0.1個のホールになる。なお、超伝導転移がはじまるときの面抵抗はh/4e2に近いとのことである。

 これとは別に、彼らはいわゆる無限層構造をとるCaCuO2 に同様の手法を用い、電子ドーピングで38 K 、ホールドーピングで87 KのTcを得たとのことである。こちらはNatureに発表される予定らしい(10/1現在)。これらの転移温度も、既存の化学ドーピングの結果と比較して、梯子系同様「もっともらしい」値である。

(TKman)