SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

4.高温超伝導ケーブルを用いた送電実験―欧米でも進展中!
_NKT研究連合、Pirelli社共同チーム_


 近年、高温超伝導ケーブルによる送電システムの激しい開発競争が日本、米国及び欧州の3極で繰り広げられている。先陣を切って米国のSouthwire社が高温超伝導ケーブル(30 m)を用いて本年1月に同社工場へ送電を開始した。引き続いて我が国の東電グループが去る6月11日、100 m長超伝導ケーブルの課電・通電試験を開始した事は、本誌6月号(Vol.10、No.3)掲載記事の通りである。Superconductor Week 誌6月11日号及び8月20日号(Vol.15、No.8&No.13)によれば、欧州からは30 m長超伝導ケーブルの実験開始が報じられ、米国デトロイト変電所での120 m長超伝導ケーブルプロジェクトは1年遅れて本年末に試験開始が予定されているようである。

 去る5月28日デンマークのコペンハーゲン市で、国内送電系統へ組み込んだ最初の超伝導電力ケーブルが稼動を開始した。当電力ケーブルは、Brondby市のNKTケーブル会社が製造したもので、開発はNKT研究所とNST(Nordic Superconductor Technologies)がデンマーク工科大学、Riso国立研究所及び電力会社(Elkraft、Eltra、NESA、コペンハーゲンエネルギー)の研究者の協力とデンマークエネルギー庁の支援により行われた。NKTの報道関係者は得意満面に「超伝導ほど理論から実用へ成熟した技術は他に例はない。超伝導電力ケーブルをアマガー変電所に設置することにより、デンマークの会社であるNKT社と当プロジェクト参加社は世界的レースの初回を勝利したのである」と述べている。NST社社長のJ.Farre氏によれば、未だ現れていない種々の問題点に対応するため、製造及び設置スケジュールにはフレキシビリテイを持たせている。それで、当初予定していた9月より早く5月に試験調整を開始することが可能になった、と云う。超伝導電力ケーブル計画のコストは、総額55Mクローネ(約600万ドル)であり、NKT、デンマークエネルギー庁及び電力会社の3者で分担されている。

 アマガー変電所(コペンハーゲン給電システムの中心的ハブ設備である)に設置されているHTSケーブルに流す電流は、徐々に増加し最終的にアマガー地区の50,000世帯(150,000人)に電力を供給する計画である。当3相ケーブルは、30 kV、2 kAの定格をもつ3本の30 m分離ケーブルから構成されており、在来ケーブルを当ケーブルと並列に接続する予定である。緊急の場合のバックアップと当ケーブルの試験のために切り離しが出来るようにするためである。運転は、少なくとも一年間は連続的にモニターされるだろう。コペンハーゲンエネルギー社プロジェクト長のS.Kvorning氏は、「当ケーブルは、アマガー地区の全世帯に電力を供給する容量を有しているが、我々はソフトスタートを考えている。我々は従来技術を予備に有しており、もっと確信を持てた時点で予備を切り離し、実負荷を増加して実際の動作条件を経験させる計画である」と語った。

 本常温絶縁型ケーブルは、NKT社が19 kmのNST社製BSCCO-2223テープを用いて製造したものである。D.Willen氏によれば、常温絶縁型設計が選ばれたのは、複雑性とコストがより少ないからである。しかしながら、NKT社は低温絶縁型ケーブルを開発したSouthwire Company(米国)と共同開発契約を結んでおり、低温絶縁型の設計情報を共有している。両社は、お互いのケーブルで共同作業は行っていないが、両設計に共通な部品については共同開発している。NKT社は、デンマーク工科大学と共同して超伝導線を銅ブスバーに接続するケーブル端末装置を設計し、製作した。3本のケーブル外径は、各105 mmでPirelli社のデトロイト変電所プロジェクトと同様であるが、非常に軽量になっている。Pirelli社のケーブルが40?50 kg/mであるのに対して、12 kg/mと軽量である。当ケーブルは、端末装置のフロワーから3階下の地階に引き込まれ、1.8 mの曲げ半径で180度の方向転換をする。そして3階上に引き上げられる。設置中に当ケーブルは、1.4?1.5 mの曲げ半径で異なる方向に数回に亘って、障害物を迂回して曲げられ或いは引き伸ばされた。

 デンマークの会社は、更なる研究開発の方向性と将来計画を決めるために本実験の結果を待ち望んでいる。超伝導電力ケーブルが将来、デンマークのような国々で経済的に実現する事を期待している。そこでは、電力の多くが大風力発電所から供給され、消費者から遠く離れた場所で高水準の電力を発電している。HTS送電システムの実施成功への鍵は、超伝導テープがもっと低コストで製造出来る事である。「丁度3年間で、出力容量を85倍向上させ、テープ長を15倍増加させて、ケーブル品質については4倍の改善を達成した。現在、新工場においてもっと工業的な製造へ移行しつつある。今後、画期的な進展が期待出来る」とJ.Farre氏は語っている。

 デトロイト変電所での120 m長超伝導ケーブルプロジェクトの進展状況について、Pirelli社のN.Kelley氏は以下のように述べた:デトロイト市のEdison Frisbie変電所におけるHTSケーブルの布設は、2001年5月初めに開始された。最初に、1本の単相ケーブルが所定の位置に引き込まれた。この相は、マンホール内で接続した後2区分に設置された。ジョイント設置は設計通りに行われ、断熱管の検査はヘリウム検出器を用いて行われた。残りの2相のケーブルは、各相のジョイントに続いて設置された。最大引き込み力は、解析的に計算された上限以下に保持した。設置後、導体の健全性を検証する為、各テープ毎に機械的変形と臨界電流を測定する事により複数のケーブル試料を試験した。製造及び設置を含めたHTS導体の平均的劣化は、American Superconductor Corp.(ASC)から供給されたデータと比較して10%以下であった。地下管路に設置された最初のHTSケーブルから得られたこれらの結果は、強健なHTS導体がハンドリングに伴う機械的負荷に耐えるように設計・製作出来る事を示している。

 ケーブルの端末作業中に、1相のケーブル内の液体窒素管路中に閉塞箇所が発見された。欠陥箇所は、ケーブル端から約44 mに位置しており、通常のケーブル端からの観察を不可能にしている。正確な診断と評価を行う為、当ケーブルは中央マンホール内で切断された。当チームは、光ファイバー探知器を用いて欠陥をフォマーのシャープエッジと特定した。フォマーの欠陥は、ケーブルの動作や信頼性に影響しない。当ケーブルがルートの真中で切断されたので、絶縁部分に対してジョイント設置と比べて異なった修復技術を使って、修復ジョイントは作成されるだろう。この新部品は、一つの付加的技術実証即ち修復ジョイントの現場設置法を創出する事になろう。

 修復ジョイントは、8月半ばまでに完成されるだろう。端末装置に関する残りの作業は、9月末以前に完了する予定である。付属装置が完成後、その他全てのパイプ系統、附随物、補助的部品及びシステムは連結されよう。冷凍機設備の設置は完了し、ヘリウム冷凍サイクルと共に液体窒素ポンプ及び加圧回路の調整作業に入っている。当作業は、8月中に完了し、引き続いてバックアップ冷凍システムの調整と試験が9月中に行われよう。ケーブルの最終調整は、10月末頃と予想され、実際のケーブル送電試験は年末に予定されていると云う。

                                                          

(相模)