SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

3.薄膜配向度の向上に新手法 _住友電工_


   住友電工はISS2001(2001.9.25〜27、神戸)において、RE-123系薄膜開発に関する発表を2件行った。内容は、ISD法による金属基板を用いた薄膜線材の高配向化と単結晶基板上大面積薄膜の高特性化とに関する進捗報告であった。薄膜線材の発表では高配向化の意外な手法に、大面積薄膜の発表ではその特性の高さに注目が集まった。

   薄膜線材の発表はエネルギー環境技術研究所超電導研究部の種子田賢宏氏によって行われた。新しい成膜方法として「Reverse ISD法(RISD法)」が開発され、この手法によってISD法で成膜したときに発生する基板法線に対する結晶のずれ角度が従来の7゜程度から2゜程度に低減された。また、RISD法で成膜した中間層上にキャップ層を通常のPLD法で成膜すると、キャップ層の面内配向性がISD法で成膜した中間層上のそれに比べて向上することが見出された。同社では従来より東京電力と共同でISD法による金属基板を用いた薄膜線材の開発に取り組んでおり、H11年度からは両社共同で国家プロジェクトに参画し、ISD法の開発に注力してきた。ISD法は基板を傾けて成膜するだけで簡単に面内配向が得られるという特徴がある一方、高配向化に向けて二つの大きな課題があった。一つは、基板を傾斜させることに由来する基板法線に対する結晶配向のずれの存在、もう一つは20゜程度とやや大きい面内配向性である。例えば、中間層としてよく用いられる立方晶のYSZの場合、<100>はほぼ基板法線の方向と平行になるように配向するが、<100>と基板法線との間には7゜程度の結晶ずれ角度が存在し、ずれの方向は基板へのプルームの入射方向と逆の方向に現れる強い傾向があった。そこで、中間層の設計膜厚の1/2を従来のISD法で成膜した後に、基板を逆方向に傾けて残りの1/2を成膜することで結晶ずれ角度をキャンセルし、2゜程度に低減することに成功した。言われてみれば当たり前に思われる、このコロンブスの卵的な手法は「Reverse ISD法(RISD法)」と命名された。RISD法によりJcは従来比の約2倍に向上したという。また、キャップ層の下地としてRISD法で作製した中間層を用いたところ、キャップ層の面内配向性が向上する傾向が得られた。これらの手法の組み合わせにより、ISD法の課題であった基板法線に対する結晶配向のずれとやや大きい面内配向性とを解決する手がかりになると期待されている。

   大面積薄膜の発表はエネルギー環境技術研究所超電導研究部の母倉修司氏によって行われた。超電導マイクロ波フィルターの材料として3インチのLAO(LaAlO3)単結晶基板上のHoBCO(HoBa2Cu3O7-δ)超電導薄膜の自社開発成果についてはこれまでも電気学会・超電導応用電力機器研究会等でも発表しているが今回新たなデータも含めて発表があった。超電導膜の作製方法としてはパルスレーザ蒸着法(PLD法)を用い、レーザ光をターゲット上に集光する光学系の全てを1本のレール上に固定して左右に揺動させる機構をとっている。この方法により、ターゲット上でのレーザ光の形状やエネルギー密度が変化せず特性の面内ばらつきを抑ることができるため、均一な薄膜の形成を達成している。超電導特性として液体窒素中で通電法によるIc測定を行っており、膜厚0.8 μm、幅2 mmの試料断面に臨界電流値(Ic)が75 Aの大電流通電ができ、そのJcとして4/6 MA/cm2の高い値を達成している。

 また作製した試料について通電法と誘導法の両測定方法により同一箇所のJcの比較をしているが、両測定方法で同等の値を確認している。またHoBCOとYBCO表面抵抗についても調査をしている。Jcが高い試料はHoBCOでもYBCOでも低くなる傾向が見られている。HoBCOとYBCOの材料による比較では、HoBCOの方がYBCOよりも低い表面抵抗(60 KではRsは約3 mΩ)が得られたとしている。さらに母倉氏によれば、最近LAO単結晶基板のみならずマイクロ波フィルター用途や限流器用途などの実用化でも有望視されているサファイア基板上でも成膜を行っており、JcとしてMA/cm2クラスのものを得ている模様。その内容については、今年11月23〜25日に福井工業大学で開催される秋季低温工学・超電導学会で発表予定とのことである。

                            

(T&H)