SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

2.力のバランスで強い磁石電磁力への対処法 _東工大原子炉研_


   東京工業大学原子炉工学研究所の嶋田隆一教授研究室では、磁気閉じ込め型核融合装置に必要な強力なトロイダル磁界発生のため、電磁力平衡コイルと呼ぶマルチ・ヘリカル形状の超電導コイルの研究をしている。その原理を応用すれば、超電導磁気エネルギー電力貯蔵(SMES)コイルの電磁応力を支える構造材の必要量が半減できることなどの検討結果を、9月24日から28日に、ジュネーブで開催された第17回電磁石技術国際会議(MT-17)で発表した。

 電磁力平衡コイルは初め核融合分野での必要性から開発された。トカマク型核融合装置は、プラズマを閉じ込めるトロイダル磁界が強いほどプラズマの性能が良くなることが実験でもわかっている。しかし強磁界発生用トロイダル磁界コイルでは発生する磁界が、トーラス中心方向に向かう向心力の集中が巻き枠ステンレス構造体の限界応力から制限されている。この向心力を相殺させるためにポロイダル磁界コイルのフープ力を組み合わせると外向きの力となって助かることがある。これを一体型のヘリカルコイルで実現しようとしたのが電磁力平衡コイルである。(図1)トロイダル磁界とポロイダル磁界によるコイルの向心力は相殺されて大半径方向の力は平衡する[1]。

 このように核融合装置強磁界発生用に考えられた特殊ピッチのヘリカル巻きトーラスコイルであるが、これをSMES用コイルとするとまた多くの利点が予想される。しかし核融合の場合では「強磁界が不可欠である」という独占技術であったが、SMESにおいては市場性から、その利点、欠点を吟味しなければならない。およそ、電力系統システムにおいて電力貯蔵は最も期待される技術であるが、貯蔵装置の効率とコストが既存の発電・送電コストとの競争の宿命にある。実用化している、揚水発電、2次電池などに対して、SMESが有利なのは大型化すると、効率、コストともに有利になるスケールメリットがあって、実機では効率は90%を越えると期待できる。製造コストを下げるには、蓄積エネルギー当たりの線材、電磁力を支える構造材が少ないものが良い。

 電磁力平衡コイルをSMESに応用するためには、目的は強磁界発生ではなく、逆に磁気エネルギーに付随して発生する電磁力を最小の構造材で支えるコイル形状は何かが命題になる。ここで引き合いに出されるのがビリアル定理(Virial Theory)である。この定理は多くの分野で使われているが、有名なのは運動エネルギーと各種の場のエネルギーの時間平均の関係であり、天体における運動エネルギーと重力エネルギーの関係である。プラズマ物理ではプラズマの体積積分と表面積分の関係をビリアル定理と呼んでいる。簡単に言えば、内部圧力を外殻の構造材で支える、いわゆる作用反作用の法則の立体版である。電磁力では、磁気エネルギー(B2/2μ0)は体積エネルギー密度であってかつ磁気圧力であるから、この磁気圧力を支えるには、引っ張り応力が構造体に生じており、その応力の体積積分は総磁気エネルギーに等しいと言っているのが磁気構造物におけるビリアル定理である。一般に磁界コイルは引っ張り応力ばかりでなく圧縮も発生している。この圧縮部分は役に立たないばかりでなく、かえってしわ寄せが他の部分の引っ張り応力を増加させ、最大応力を制限すると磁気エネルギーは小さくなってしまう。磁気構造物で有名なビリアルの定理、構造物の容積対エネルギーとの関係M ? (ρE /σ)の不等号はこの意味であったと解釈される。磁気構造物の引っ張り応力を均等にして圧縮応力が出ないようにコイル巻きピッチを工夫するとビリアル定理の不等式がイコールとなって、構造体の無駄のないコイルが実現できる。さきの大半径方向の力をバランスした核融合用電磁力平衡コイルもφ方向の圧縮力をゼロにした場合である。ここで、もう一段階上がって、ビリアルの定理の究極に、構造体の形に応じた引っ張り力をうまく分布させて、応力集中を排除して体積積分を最大にできれば、それが最強の電磁力平衡コイルとなる[2]。これをビリアル限界コイルと呼んでいる。

 このグラフ(図2)はアスペクト比5のヘリカルコイルがトロイダル方向に1周するとき何回巻くかのピッチ数Nを横軸に、(トロイダル磁界は一定にして)生じる分布応力(引っ張りがプラス)の変化を示したものである。概念的には、Nが無限大の場合は単純トロイダル磁界コイルになる。ピッチ約11.5でφ方向の力がゼロになる。大半径方向の力が平衡していることを示す。ピッチ約5ではθ方向の応力がゼロになり小半径方向が平衡しているのがわかる。その矢印の間は圧縮応力が現れない無駄の無いコイルと言える。さらにピッチ7.5付近がθ、φ方向とも同じ大きさの引っ張り応力になる。このピッチを利用して構造材量を減少できるのがビリアル限界コイルである。

 このように、電磁力平衡コイルの概念検討は進化している。また製作技術が鍵になると嶋田研究室はこの複雑なコイルを自動で作る巻き線機械を試作している。困難なピッチ変調ヘリカルコイルであるが、SMESの製造コスト低減には、巻線方法の研究が重要である。計算機制御の可変ピッチヘリカル巻き線機械により、外直径1.2 mの超電導線(ニオブチタン線)電磁力平衡コイルの巻き線作業の検証も行った。また総合的に、これらのコイルを超電導状態で応力の検証をするためにNEDOの平成12年度産業新技術研究事業費助成をいただき、この秋から、超電導コイルを製作、順次、実験がなされる予定である[3]。

 上記記事について、日本原子力研究所那珂研究所核融合工学部超電導磁石研究室の奥野清部長は「核融合炉やSMESで使用される大型コイルでは、コイルに発生する巨大な電磁力を、如何に効率よく支持するかがポイントで、装置の技術的、経済的な成立性に係わる問題 である。電磁力平衡コイルの概念は画期的であり、今後、実用化のための製作技術の開発や、修理・交換性といった点まで、検討して行く必要がある」とコメントしている。

(東京工業大学・原子炉工学研究所 教授 嶋田隆一)

 [1]三浦友史、迫田充代、嶋田隆一:「強磁界発生用超電導電磁力平衡コイルの概念検討」電学論 D、(1994)pp.1155 -1162
 [2]筒井広明、野村新一、嶋田隆一:「Virial 定理の磁気閉じ込め核融合装置への応用」プラズマ・核融合学会雑誌77、No3、(2001) pp.300-308
 [3]S.Nomura et al:"Variations of Force-Balanced Coil for SMES" MT-17