SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

15.国際フロンティア産業メッセに超電導関連19ブース


 9月26日‐28日神戸国際展示場において、国際フロンティア産業メッセが「次世代戦略技術・サービスをビジネスチャンスに」をテーマに開催され、国内外の企業約420社が出展した。うち、19ブースが超電導技術関連ブースであった。そのうちのいくつかの印象を取り上げてみた。

 デュポン社ブースは高温超電導薄膜フィルタの機が熟したとして、いよいよ大きく市場に打って出ようとする意気込みが感じられた。携帯電話基地局向けフィルタの売り込みに、これまで、同社はベンチャー他社ほどには熱心でなかったが、市場が1000台納入を越えたこともあり、今後の課題が小型化、低価格化にあるとする路線を主張しているように思われた。同社はこぶし大の超小型冷凍機(80 K,1 W 出力、10 W入力)に10 cm径(厚みも全体で2 cm程度)のフィルタ部を装備した「部品としてのフィルタ」(全重量2 kg)を目標としているように思われた。このような超小型冷凍機冷却で済む理由は、同社が開発してきた臨界温度の高いタリウム系高温超伝導体薄膜の利用が預かっている(90 Kのイットリウム系に対して127 K)。性能を上げつつあるセラミック誘電体フィルタにコスト的にも対抗する。また、3インチ透明ウェーハ上に、フロントエンドレシーバとして、超電導‐半導体混成集積回路を作成していた。同社は、さらに、新たに作成した高温超電導磁石を用いた鉱物資源磁気分離プラントの縮尺モデルを展示した。このプラントはエネルギー省のSPI研究費に基づいており、30 Kの冷凍機冷却単一パンケーキコイル(250 mmID,360 ID、3.0 T)ビスマス線材磁石が用いられている。

 一方、潟Nライオデバイスは、高能率移動体通信への超電導応用のためにデンソー・アルプス電気が共同設立し(従業員26名)、活レ動体通信先端技術研究所(AMTEL)が94年より行ってきた研究成果を引き継いだものであるが、次世代無線に照準を合わせたサイズの大きな高性能型フィルタの展示を行っていた。また、フィルタに合わせてパルスチューブ冷凍機・タンデム冷凍機の開発も自ら行っていることが印象的であった。

 NECは同社が力を入れて開発を進めてきたSFQ(single flux quantum:単一磁束量子)素子を用いた超高速の半導体回路測定用サンプラーを出品した。まだ、期待ほどの性能が出ていないが、実装技術を含めた周辺技術も展開して、総合的な解決を図ろうとしているとのこと。

 セイコーインスツルメンツ社は同社の開発した走査型SQUID顕微鏡を出品した。すでに半導体集積回路の電流分布測定、磁性体の磁区分布、超電導薄膜中の捕捉磁束の観測などに市販品として用いられている。

 住友電工ハイテックス鰍ヘ高温超電導SQUIDの開発グループなどが作ったベンチャーであるが、この展示会で同社のSQUIDを展示し、磁性粒子混入検知など新たな用途開発の状況を展示した。

 大学唯一のブースとして、大阪大学基礎工学部の小林猛教授の研究室は、磁気シールドなしに高温超電導SQUIDで心磁計測のできる同研究室と住友電工ハイテックスが共同開発したシステムを展示した。3方向のグラジオメーターを用いることで磁気雑音を補償することで、通常の室内で心臓磁気の測定ができることをデモした。

 日本クォンタムデザイン社は、低温測定用のPPMS、MPMSの標準機種を展示するとともに、ネオセラ社のパルスレーザーデポジション型超電導薄膜製造装置を展示した。

 同和鉱業はイットリウム系溶融凝固バルク体のラインアップとともに、新たにサマリウム123系で1.78 Tをトラップできる(77 K)大型バルク体の展示がなされていた。また、円筒型バルク体、スパッタターゲットなども出品されていた。

 岐阜県に本社をもつ概YKは超電導工学研究所塩原融部長らの開発した単結晶合成技術を導入し、イットリウム系のパワーリードを出品していた。白金添加型で17 cmまで、銀添加型で13 cm長までのリード棒が作れるようになり、3点曲げ試験で強度は非添加型の2倍になったという。また、銀電極との接触抵抗を抑えるために、溶融銀の中に超電導酸化物を飽和させる方法がとられている。臨界電流密度は7万A/cm2、2 mmφでの定格臨界電流が200 Aであり、磁場の高い場所での使用に適する。同社はもともと耐火物メーカーである。

 新日鉄は商標名QMG(Quenched Melt Growth)の溶融凝固バルク体の展示を行った。標準品で100 mmφ、厚み20 mmまでを揃え、1 kg程度の大型バルク体も作ることができるという。用途は電流リード、限流器、軸受け、フライホイール、非接触搬送、モーター、磁石などとしての使用に供されている。

 蟹MRA材料開発研究所は溶融バルク体と冷凍機を組み合わせ、パルス着磁による強力磁場発生装置を展示した。2つの冷凍機で45 K程度に冷却された1対の超電導バルク体の間の空間に最大2.9 Tまでの磁場を発生させることができる。本装置の展開形として、マグネトロン・スパッタリング装置の開発が行われている。従来よりも強力な磁場により、より高い真空度でもプラズマを磁気閉じ込めすることができ、スパッタリングが可能となる。これにより、スパッタ薄膜の品質が高まると期待される。真空機器メーカーのアネルバと名古屋大学応用物理学科水谷宇一郎教授の研究室との共同で進められている。

 アイシン精機そのものは、GM型低温測定用の冷凍機を主体とした展示を行った。新製品としての、低温領域にまったく可動部のない、パルス管冷凍機が既に市販されたことに興味を持った。メンテナンス・インターバルは二万時間以上とのこと。GMパルス管型では0.8 kW電力消費で、90 Kでの冷凍能力4 W、最低到達温度40 Kに到達している。スターリング・パルスチューブ冷凍機では、77 Kでの冷凍出力8 Wのものが、100 V300 Wの手軽さでできていた。50 Kまで下がり、10分で77 Kに達するという。いよいよ、本格的パルスチューブ冷凍機時代に入ってきたようだ。また、ペルチエ素子とそれを用いた冷凍システム(-70℃)も展示されていた。

 中部電力と昭和電線電纜は共同開発のBi2212系線材を用いた3 kA以上の容量を有する20ストランド(素線を20本より合わせた)型ラザフォード導体(Ni・Crコアで補強)を含む種々の導体を展示した。60ストランドでは10 kA容量となる。使われているBi2212線材は20 Kでも15 T以上の磁場下でNb3Snのヘリウム温度での値よりも臨界電流が大きいという。また、同社と中部電力との共同で今後5年間の内に、瞬時電力供給停止に対応する10 MJ容量の超電導コイル電力貯蔵装置(SMES)を開発することを計画するプロジェクトの展示を行った。これはOD54 cm、h70 cmのコイルを用い、従来の金属系に比べてサイズで5分の1、磁場が高く、漏洩磁場を低く保ち、冷凍機で作動する。当面の開発目標は量産レベルで線材の臨界電流を高めることであるという。

 三菱重工は中部電力と共同で、電力貯蔵用 10 kWh級フライホイールの開発計画の紹介を行い、試作したCFRP製回転体(1枚の重量0.4t)を展示した。15,860 rpmの高速回転に耐える。これはNEDO-ISTEC-四国電力などのプロジェクトとは独立に両社が開発を企てているもので、超電導磁気ベアリングを使う点では同じであるが、重量の支え方に差がある。

 住友電工は同社の幅広い製品と開発プロジェクトの紹介を行った。既に市販を開始した線材、横須賀電力中央研究所で長期通電試験が開始された66 kV、1 kArms、114 MVA電力ケーブル、限流器用に開発の進んでいる薄膜テープ線材(ハステロイ基板、YSZバッファ、ISD法2軸配向薄膜)、3インチLaAlO3基板上にPLD法で堆積したホルミウム系高温超電導薄膜など多彩であった。

 (有)ケイ・アンド・アールクリエーションは、商社として、世界で初めての大型MgO単結晶を作った実績をもつタテホのMgO基板、Crys Tec社の結晶基板(SrTiO3、LaAlO3、など)、THEVA社のYBCO薄膜を展示した。THEVA社は3インチ大型YBCO薄膜作成で知られるミュンヘン工科大学のH. Kinder教授によって設立されたベンチャーである。さらに、THEVA社の交流磁化測定法による液体窒素温度での4インチサイズまでの薄膜の臨界温度と臨界電流の分布を自動測定できる小型装置の実演を行った。

 また、国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)はその多彩なプロジェクトの展示紹介を行っていた。

(OJT)