SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

13.バルク超電導体開発の話題 ―PASREGおよびCEC/ICMCだより―


 2001年7月11日から13日の日程で、通称PASREG会議(バルク超伝導体に関するワークショップ)が米国Seattleで、また、7月16日から20日の日程でCEC/ICMC会議が米国Wisconsin Madisonで開催された。それぞれの会議で報告された内容を中心に、最近のバルク超伝導体開発に関するまとめを行う。

 バルク超伝導体の材料開発の話題としては、いかに捕捉磁場の強い材料をつくるかという課題と、大型化をいかに実現するか、また最近では材料の機械特性をいかに改善するかの3点である。

 応用上大切な捕捉磁場の向上には、臨界電流密度の向上と材料の大型化に必要となる。これら特性は順調に向上し、捕捉磁場に関しては、77 Kでの世界最高値はGd-Ba-Cu-O系において3.3 Tが報告されている。温度を問わない世界最高は、25 Kで15 Tである。ただし、この値は材料の破壊で上限が決定されているため、実際の能力は、これ以上と考えられる。

 バルク体の機械特性向上では、エポキシ系樹脂を含浸する手法が確立されつつある。バルク体の大型化に関しては、1個で大型結晶育成には限界があるため、複数の種を用いる方法や、接合が検討されている。特に、バルク体の接合に関する研究は数多くの報告があった。多数のY123バルク体をEr123粉末と同時成型し、熱処理する方法では直径60 cmを超える成型体の接合が可能となる。

 また、バルク体の励磁方法としてパルス磁場を利用した方法が検討されているが、かなりのレベルにまで達している。

 応用に関しては、名古屋大学とイムラ材料開発研究所が共同開発し、アイシン精機が販売している対向型磁場発生装置が海外の研究者の注目を集めた。また、日立製作所と超電導工学研究所が共同で開発した水浄化用の磁気分離装置に関しても、バルク超電導磁石の利点を非常にうまく応用した例という高い評価が得られた。

 浮上を利用したフライホイールは、日米欧で開発研究が行われており、米国では、無停電電源用の1kwh機の商品化が検討されている。バルク超電導体の開発は、いよいよ本格的な商業化の段階に達したという印象を受けた。

 最後に、バルク超伝導体の開発に大きな貢献のあった研究者を顕彰するPasreg Awardは、David Cardwell(英)、John Hull(米)、Kamel Salama(米)、Shinya Nariki(日)の4名に贈呈された。日本の超電導工学研究所成木紳也氏は、77 Kにおける世界最高の捕捉磁場を達成した業績が評価された。これだけ、高い捕捉磁場を記録する材料を再現性よく作製できるのは世界でも成木氏だけであり、彼の方法のどこに秘密があるのかと多くの研究者が興味を抱いている。

              

(田町レビ)