SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

12.無線通信向け超電導フィルターの開発続く 
_米国コンダクタス社_


 ここ2?3年、高温超伝導体(HTS)を用いた移動体通信基地局用フィルターは、実用段階に入っている。現地試験を含めて、フィルターの設置が急速に進み、2001年春の時点で800台以上の設置が報じられている。新型フィルターの開発は、第3世代あるいは第4世代向け高性能型フィルターの開発に移っているのが最近の特徴である。高選択性フィルターの方も次々に開発され、我国では、本誌2000年12月号に掲載したクライオデバイス社試作32段フィルターの例があるが、この度それを超えるフィルターの開発が米国から伝えられている。

 Superconductor Week 誌6月18日号及び7月9日号(Vol.15、No.12&No.13)によれば、米国のコンダクタス社(Conductus Inc.)は最近、今までに報告された如何なる薄膜または厚膜超伝導フィルターに比べ性能が優れた先進薄膜超伝導フィルターを開発した事が明らかになった。第3世代(3 G)無線ネットワークに使用するこの新しい広帯域CDMAフィルターは、帯域外信号を拒絶する極めて高い選択性と非常に低い損失を併せ持っており、ネットワークの伝送容量、カバー領域及びデータ伝送速度を増加出来るものである。新フィルターの構成は、現行の2Gと次期の2.5Gネットワーク、その他高性能を要する応用にも適用出来る。

 コンダクタス社は、米国商務省所属機関であるNational Institute of Standards and Technology(NIST)により支援される先進技術プログラム(ATP)の下、現在進行中であるプロジェクトの一部として、新フィルター技術を開発している。"第4世代(4G)無線システム向け先進受信器フロントエンド技術開発"と題される当プロジェクトは、超高速データ通信を支援出来る将来世代の無線ネットワークに対する挑戦的な要求に対応出来る技術開発を目指している。超選択性フィルター技術は、本プログラム中で開発中の中核技術の一つである、と云うのは無線ネットワークの通信量が増え、より高いデータ帯域幅に向かって行くにつれて、干渉の影響を受け易くなるからである。

 本新フィルターは、3Gバンド端(2 GHzの直下に置かれている)から400 kHz離れたところで100 dB以上(即ち望ましくない信号の10億分の一だけが当フィルターを通過出来る)の信号低減を実現できる。これは、近接信号干渉の拒絶に於いて、今までに報告された如何なるフィルターよりも極めて有効である。この拒絶性能がバンド内の低損失(本ケースでは1 dBより小さい)と一緒に実現している事は、同様に重要な注目事項である。このような特性により、所望の周波数バンドに近接した周波数に於ける信号干渉の影響を実質的に消去する理想的フィルターが実現すると共にカバー率、伝送容量及び基地局のバンド幅を最大限に維持出来る。

 「当新世代の薄膜超伝導フィルターは、今日利用出来る薄膜超伝導フィルターの内で最高の性能を提供出来ると思う。薄膜技術に於ける我々の最近の進歩は、継続的技術進歩が長期に亘って次々により高性能のICを産み出した半導体技術の進歩に類似している。例えば、当社は一年前に日本のKDDI及び日立と共同して3G無線ネットワークで我々の超伝導フィルターClear Site(R)の実地試験に世界で初めて成功したことを発表した。当社システムには、16マイクロ波極を持つフィルター即ち16段のフィルタリングが包含されている。今日、当社の新しい超選択性フィルターは、従来構成の50極に匹敵する帯域外減衰性能を有しているが、群遅延特性の問題は等価の選択性を示す従来フィルターよりも少ない」とShalvoy氏は語っている。

 さらに新しい開発プロジェクトとして最近、コンダクタス社は米国軍航空機・ミサイル司令部より"小型化極低温エレクトロニクス受信器プロトタイプ"と題する研究請負を受託した。当計画は、衛星通信や航空機塔載用受信器を含む種々の応用向けに小型化超伝導フィルターの開発を目指している。当計画の契約額は、二年間で744 kドルとされている。

 この新プロジェクトの下、コンダクタス社は幾つかの超伝導フィルタープロトタイプを開発し、特別な応用からの要求を満たす為、フィルターの外形サイズ縮小に努めるだろう。一つのそのようなシステムは、船舶塔載の通信応用を目指している。当システムは、全体が冷凍機を含めて5ポンド以下であることを要する。もう一つのプロトタイプは、航空機上の小空間に設置出来るように、6インチ立方以内に収まる必要がある。これらの応用では、超小型スターリング冷凍機を超伝導部品に組み入れる事が必要になろう。もっと一般的に云えば、当プログラムによりコンダクタス社は必要な技術開発が可能になり、その技術を適用してより小さく軽量で省エネルギーの超伝導フィルターの開発が出来るようになった、と云うことである。

                                                                   

(高麗山)