SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

11.THzレーザーに向けてプラズモン励起に成功 _阪大・イエナ大_
_NEC基礎研究所_


 次世代高速通信や物性研究においてサブテラヘルツ〜テラヘルツ帯(THz)電磁波の安定な発信源の開発が望まれており、最近このTHz電磁波の発信源として、酸化物高温超伝導体が注目を浴びている。これはこの結晶構造中に天然に存在する多重ジョセフソン接合の間で生じるジョセフソンプラズマ共鳴により放射されるTHz電磁波を利用しようという試みであり、この実現に向けて酸化物高温超伝導体の磁束状態に関する基礎的な研究から、将来のTHzレーザーや新規量子デバイスの開発に向けた精力的な研究が行われている。

 最近、この酸化物高温超伝導体からのTHz電磁波放射に関して、阪大超伝導フォトニクス研究センターの村上博成氏、斗内政吉氏とドイツ・イエナ大のP.Seidelらの研究グループはTl2Ba2CaCu2O8(TBCCO)薄膜にフェムト秒パルスレーザー(パルス幅約100フェムト秒、波長790 nm)を照射することにより、ジョセフソンプラズマ励起によるTHz電磁波の発生を確認したと報告した(図1参照)。

 彼らによれば、試料はサファイア基板上に55 nmのCeO2バッファ層を介し、マグネトロンスパッタ法により作製したc軸配向TBCCO薄膜(Tc= 99 K、 Jc = 2×106 A/cm2 at 77 K)で、これをフォトリソグラフィによりブリッジ部が30 μm×40 μm(幅×長さ)のボウタイ型アンテナ形状に加工したものを用いている。この試料をTC以下に冷却した状態で、さらにそのc軸方向に永久磁石で100ガウス程度の磁場を印加し、フェムト秒パルスレーザーを照射した。これにより、24 Kにおいて630 GHz程度の共鳴周波数を持つジョセフソンプラズマによる発振が観測され、その共鳴周波数は、温度の上昇とともに低周波数側へシフト(70 Kで430 GHz程度)し、TC付近で消失したということである(図2参照)。なお、この電磁波計測には、従来から彼らが用いてきた時間領域テラヘルツ電磁波検出システム(時間分解能0.1ピコ秒以上)を使用している。彼らは、これまでにも電流をバイアスした超伝導薄膜にフェムト秒パルスレーザーを照射し、過渡的な電流変調を引き起こすことによりテラヘルツ電磁波の放射に成功している。今回観測された共鳴電磁波放射は、この電流変調により放射された電磁波(図2において中心周波数が100 GHz付近)とは明らかにその中心周波数が異なり、この電流変調(通常数ピコ秒)が終了した後も10ピコ秒程度引き続き観測されたという。

 このフェムト秒レーザー照射によってどうしてジョセフソンプラズマ共鳴が発生したかについての詳細はまだよくわかっていないが、今回はc軸方向に磁場が印加されており、これによるパンケーキボルテックスがフェムト秒パルスレーザーにより直接励起されることにより、超高速フラックスフローが生じ、これがジョセフソンプラズマ共鳴を誘発か、もしくは上記電流変調により発生したTHz電磁波との共鳴により誘起されたのではないかと考えられている。また、観測された放射電磁波の強度は照射するレーザーのパワーの増加に伴って増加しており、共鳴周波数の方は若干減少していく傾向が見られたという(図1参照)。この強度については、これまでの超伝導電流の変調によって発生する電磁波の強度とオーダー的にはほぼ同程度もしくはそれ以上のものが観測されているという。

 今後、さらに磁場強度および磁場印加方向依存性や温度依存性について詳細に調べていくことにより、酸化物高温超伝導体中のボルテックスダイナミクスやジョセフソンプラズマ励起機構について詳細な知見を得ることが可能であり、その結果を踏まえて、応用面でも、波長の近接したレーザーダイオードによりフォトミキシングしたCW波等を照射することにより、波長可変THzレーザーの開発も期待できるのではないかとしている。

                                  

(HMT)