SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.5, Oct. 2001

10.SFQ(単一磁束量子)回路による2x2スイッチの機能試験に成功
_NEC基礎研究所_


 NEC基礎研究所は、アドレスデコードと衝突の検出機能をもつ2x2スイッチをSFQ(単一磁束量子)回路で実現し、その機能試験に成功したと、9月末に神戸市国際会議場で開かれた第14回国際超電導シンポジウム(ISS 2001)で発表した。

   SFQ回路は高速かつ低消費電力であることから、超伝導ディジタル回路の回路方式として注目されている。NEC基礎研究所では、SFQ回路を用いたディジタル回路応用として、大容量ハイエンドルータの開発を進めている。ハイエンドルータのなかでボトルネックになるのがデータの切り替えを行うスイッチであり、機能試験に成功した2x2スイッチはその重要な基本構成要素である。

 2x2スイッチは、入力された二つのパケットのへッダを読み、へッダに書かれた出力先アドレスをデコードしてパケット交換を行う(図1)。出力先アドレスが同一の場合、つまりパケット衝突が起きる場合、スイッチは衝突を検出し、パケットのへッダに衝突が発生したことを記録する。アドレスのデコード機能をもつ2x2スイッチは自律的に経路を決定できるので、この2x2スイッチを多段に接続するだけで、多入力のスイッチを構成することができる。

 制御部を含む2x2スイッチは、シフトレジスタなどの繰り返し構造をもつ回路と異なりランダムロジックと呼ばれる。ランダムロジックの回路設計としてセルベース設計手法を用いた。セルベース設計では、基本的なSFQ回路である「セル」を予め用意し、それらの接続で大規模SFQディジタル回路を構成する。2x2スイッチは730セル、2400ジョセフソン接合を要した(SUPERCOM 2001,8 通巻52 に既報)。

 図2に2x2スイッチの動作波形を示す。信号sep、sep_outによって入出力パケットが区切られる。入力パケットの左から4ビット目が出力先アドレスである。はじめの二つの入力パケット0110010、 0111011はそれぞれの出力先アドレスが0と1であることから「バー」のパケット交換を行う。次の二つの入力パケット011100011、 011000101は出力先アドレスが1と0であることから「クロス」の交換を行う。動作波形が示すように、出力アドレスに従ったパケット交換が行われている。尚、デコードに用いたアドレスビットはスイッチで消去され、出力パケットに現れない。

 2x2スイッチの回路設計とテストを行った亀田義男研究員は「セルベースで設計された2400接合という大規模SFQ回路が実際に動作したことで、繰り返し構造を持たない大規模なランダムロジック回路設計にセルベース設計手法が有効であることが示された。」と述べている。また、同じく設計・開発に携わる萬伸一主任研究員は「この実験の成功は、SFQ技術を用いた新しいディジタル技術構築のための第一歩である」と話している。

【ハイエンドルータ】

 ルータの基本機能は、ネットワーク上に流れる情報をその届け先に従って適切に経路を切り替える機能である。その他に、ある特定の情報のみを通さないなど、転送の複雑な制御を行うことができる。ルータのなかで、大容量の基幹(バックボーン)に接続され、高い交換能力を必要とするものをハイエンドルータと呼ぶ。ハイエンドルータはネットワークセンターなど、データが集中する拠点に置かれ、高速かつ大容量の交換を行う。また、様々な情報が集まるので、高い信頼性や汎用性が求められる。ネットワーク上に流れる情報はルータなどの中継器を必ず通過することから、今後の更なる情報量の増大につれて、ハイエンドルータの負荷が増大することが予想され、より高い性能が求められる。

(輪)