今回開発された方法は、これまでのように超伝導結晶の薄膜を作っておいて後からリソグラフィとエッチングによって微細加工するという方法をとるかわりに、基板を微細加工しておいてその上に微細構造をもつ結晶を成長させようというものである。まず、面方位(001)をもつSrTiO3基板に集束イオンビーム(FIB)装置でGaイオンを用いて直接微細構造を作る。つぎにこのように加工された基板上に分子線エピタキシー(MBE)法でビスマス系2212高温超伝導体を成長する。図1は、加工された直径1ミクロンの円柱状構造の上に成長したBi系超伝導体結晶のSEM写真である。基板に形成された構造の形状は円形であったが、成長した結晶は結晶面(ファセット)に囲まれた八角形の形状をしている。したがって、得られた超伝導体の微細構造は、結晶面に囲まれた単結晶であることがわかる。従って、この結晶面が得られる基板方向に平行にパターンを形成すれば、原子レベルで制御された微細構造を作製できる。この研究室では、昨年度すでにこの手法を用いて結晶性のよい0.3ミクロン幅のラインアンドスペース・パターンを形成することに成功している [1]。
c軸配向した酸化物超伝導のべた薄膜はa軸方向とb軸方向が混在した双晶から構成される多結晶構造であるため、これまでの一般的なパターニングプロセスでは一つ一つのグレインは単結晶であっても選び出して加工することはできなかった。今回開発された手法では、任意の場所、形状、サイズを選んで単結晶状の構造を成長させることができることに加えて、プロセスが基本的には基板の加工と超伝導薄膜の成膜の2工程だけと簡単であることも優れた点である。
最近、この手法で作製された微細構造は超伝導特性も良好であることが実証された。図2は、35 Kにおける幅0.7ミクロン、長さ1ミクロンのブリッジ構造の電流電圧特性である。Jc=4.8×106 A/cm2におよぶ非常に大きな臨界電流密度が得られている。いくつかの試料を作製したが0.7?3ミクロンの幅のブリッジにおいて、106 A/cm2台のJcが再現性よく得られている。1ミクロン以下のサイズで、このような大きなJcが得られたという報告はこれまでになく、サブミクロンにおける世界最高記録だと考えられる。
微細構造作製の精度を向上させることで、超伝導素子の集積化だけでなく、SFQ回路やSQUID素子への磁束量子のトラップの低減によるノイズの低減の効果も期待される。さらに、単電子(Cooper対)トランジスタや、イントリンシックジョセフソン素子などの作製への応用も期待される。
この技術の開発を担当した石橋隆幸助手によれば、「現在、0.3ミクロンまでの構造の作製が可能になっているが、基板の加工に電子ビームリソグラフィ等を用いて基板の加工精度を上げることによってナノメータサイズの構造の作製も可能になる。」とコメントしている。
[1] T. Ishibashi, T. Kawahara, H. Kaneko and K. Sato, Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) L863.
(BS)