SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.4, Aug. 2001

2.海水中の油を超伝導で分離:実証実験に成功
_神戸商船大、川崎重工_


 この表題をみると、磁性粉体に油を吸着させ、その粉体を磁力で海水から分離することを想像されるかもしれないが、本件はローレンツ力のみで油を分離する技術で、磁気分離研究に造詣深い阪大産研西嶋茂宏先生をして「目からうろこ」と言わせたユニークな技術である。

   神戸商船大超伝導グル−プ(西垣和副学長)と川崎重工低温グループ(岩田章技研副所長)は、かねてより電磁推進船、海流MHD発電、海流水素生成等、「海と超伝導」を共通のキーワードとして数々の共同研究を実施している。本件はその最新の成果の一つである。

 図1に示すように、海水に通電して外部から磁場を印加すると、海水にローレンツ力が作用する。しかし海水中の油には電流が流れないので、油中にはローレンツ力は作用しない。このローレンツ力は重力と同じ体積力であり、油は水中の気泡同様、ローレンツ力と反対方向へ、図2では海水の流れに対して右側へ押し出され、分離板により油リッチの海水が分離される。

 図2(a)をご覧頂きたい。これは液体中の気泡に作用する浮力の説明であるが、液体の密度をρとすると、液体には単位体積当たりρgの重力が作用する。この重力の気泡表面での積分値が浮力で、気泡の体積をVとすると、浮力の大きさは大略ρgVとなる。一方、先述のように海水に通電して磁場を印加すると、フレミングの左手則にしたがって海水にはローレンツ力が作用する。図2(b)では、海水電流は紙面に垂直で向こう向き、磁場は紙面の左から右方向とすると、ローレンツ力fは重力と同様、下向きに作用する。しかし電流が流れない油球中にはローレンツ力は作用しないので、油球は図2(a)に示した重力の働かない気泡と同じで、fVの分離力(浮力)が作用し、油球は海水から絞りだされるように分離される。

 この分離法の特徴は、電磁場以外には何もいらない点であり、海水中の油分離以外にも例えば東京大学北澤教授によると、名古屋大学の浅井教授は溶融金属からスラグを除去するのに利用されており、本分離法にローレンツ力アルキメデス法との名称を与えられているとのこと。これ以外にも、より広い分野での応用展開を期待したい。

 このアイデアは随分と古く、平成3年に特許出願(特許2044121号)、5年前のナホトカ号による石油流出事故の際に実証研究計画を考えたが、実際に着手したのは3年前に岩田章氏が神戸商船大客員教授として着任してからで、同大西垣研究室の友森直尚君(現大学院生)の学士論文研究として、シミュレーション解析および実証実験を行うことになった。実施に際しては、同大学の武田実助教授、大学院生須山大樹君(現(株)アイシン・エイ・ダブリュ)他の全面的なバックアップを得るとともに、幸いなことに科研費も頂くことができた。

 実験は室温ボア径25mm、最高磁場10テスラの超伝導マグネットを使用、この中に海水通電用電極を配置した分離セルを挿入し、油の模擬として海水と同密度のプラスチック製球体を混入した海水を分離セルに流し、磁場強度、海水電流、海水流速、油(ナイロン球体)粒径をパラメータとして分離効率の計測に着手した。既に予備的な実験は終了し、ほぼシミュレーション解析通りの実験結果を得、基本的な考え方の実証は終えている。現在それらをベースに本格的な実験を準備中で、秋の低温工学・超伝導学会にはその一端を紹介できると思う。 まだまだ小規模な基礎実験段階ではあるが、今後これら一連の研究成果を受け、実用化に向けたF/Sを実施したい。

 海は限りなく広く、我々の生命、エネルギー、資源の源である。 この海から次代の糧を得たい。 超伝導はそのためための重要なツールとして期待している。特にMgB2には期待大である。

        

(KUMM)