SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.4, Aug. 2001

14. 2001 International Workshop
on Superconductivity Co-sponsored by ISTEC and MRS
"HTS Conductors, Processing and Applications" 報告


 平成13年6月25日より27日まで、HonoluluのHyatt Regency Waikikiにて上記ISTEC MRS共催のワークショップが開催された。今回のテーマは高温超電導線材とその応用である。特に最近とみに研究開発に拍車がかかった感のあるY系線材を中心に据えたワークショップであった。初日の基調講演ではORNLのHawsey、SRLのShiohara、Goettingen大学のFreyhardtの三氏が米日欧のY系線材研究開発の現状を紹介した。ハワイからの距離が遠いせいもあり、ヨーロッパからの参加者は比較的少なかったが、日米の主だったY系線材の開発に参加している研究者はほぼ一同に介していて、この分野の現状の把握には大変役立つ会議であった。発表は応用に関する数件を除き、すべてY系線材に関するものであった。発表件数は82件、参加者は総計100名にのぼった。会議の全般的印象から受けた、日米欧の次世代線材開発の進捗状況に関して特徴的なことは、日本のプロジェクトがSRLを中心に民間線材メーカが開発主体なのに対し、米国は国研、欧州ではまだ大学が中心であることから、短尺での特性などは三極ほぼ同等、あるいはプロセスの多様性、開発人員の陣容、層の厚さなどでは、米国に軍配があがるようでもあるが、長尺化の進捗では、日本が優位に立っている印象であった。

 米国では、ORNL、LANLをはじめとする7国研、20の企業、19の大学が超電導の電力応用へ向けて研究開発を行っている。特にY系線材の研究開発に関しては、ORNL、LANL、ANL等の国研が当初の役割分担を越えて10 mまでの長尺化に関与することとなった。そのために2001年度当初の予算に加えて、5百万ドルが追加され、10 m クラス線材作製のためのORNL, LANLのラボ整備やIGC-SuperPowerのクラス1万のクリーンルーム、IBAD装置導入に当てられた模様である。ちなみに2001年度の開発費総額は政府民間あわせて3200万ドルと予想されている。米国のY系線材開発、特に本格長尺化の局面では、コスト重視の観点から、ローコストで高特性の得られる、BaF2 ex-situプロセスとTFAプロセスに最も力をいれている。ともにフッ素がプロセスにおいて重要な役割を演じており、まだ成膜機構等基礎的部分においても不明の点が多い。米国でのTFAプロセスに関する研究開発は現在AMSC, MIT, ORNLなどを中心に、Sandia NL, ANL, U Houstonなどで行われている。またBaF2を介する電子ビーム蒸着によるex-situプロセスはORNL, 3M, LANL, Southwireでおこなわれている。現状では、TFA、BaF2ともに熱処理と結晶成長機構等プロセスの基礎に関する研究とメートル長の連続プロセス開発が行われている段階である。

 AMSCのThiemeらは、RABiTS上に電子ビーム蒸着あるいはゾルゲル法でY2O3、Gd2O3シード層形成、その上にスパッタ法でYSZ/CeO2中間層を形成し、さらにその上にTFA-MOD法によりYBCOを成長させている。結果は短尺サンプルで臨界電流が液体窒素温度で2MA/cm2、でありreel to reelで成膜した試料の1cmあたりのIcは40A/cmであった。Icの値に関して、Ex-situプロセスの方がTFAプロセスに比べ、仮焼時の発泡等の問題がない分厚膜化の点で有利である。ORNL(LANL連合軍)のLeeらの結果ではIBAD上に1mm厚の膜が200 A/cm、RABiTSの場合、1.9 mm厚で164 A/cmであった。RABiTS上の膜はIBAD上の膜に比べてJcで2倍以上の開きがあることを示している。Ex-situ プロセスの長尺化に関してはORNLと3M間で技術移転が行われている。m長の試料をreel to reelで作成しテープのハンドリング、長尺試料の熱処理パターンの最適化をおこなった。その結果全プロセスORNLで一貫作成した60cm長1cm幅の試料のJcがend to endで450kA/cm2であったのに対し、YBCOの熱処理を除いて、プリカーサの成膜まで3Mで作成し最後の焼成のみORNLでおこなった試料でも270 kA/cm2であり、着々と技術移転が進んでいることを強調していた。

 長尺化の進捗の点からは日本から10 mクラスの発表が続き米欧を一歩リードしている印象である。FujikuraのIijimaらはIBADの大型のイオン照射装置と多数回繰り返しループ方式およびパイロクロア構造の新中間層材料の採用で高速化、長尺化を実現している。基材は50 mクラスを達成し、プロジェクトの目標値の100 mに着々と近づいている。YBCO成膜は10 mクラスまでであるがIc=50Aを達成している。SumitomoのISDプロセスでも10 mクラスの成膜を実現している。また希土類をホロミウムに置換した123材料がISDの場合良好な特性を示すことをあきらかにした。SOE基材もFurukawaのWatanabeらによって非磁性化、長尺化が進み、現在30mまで完成している。さらにJcの改善のための中間層の検討がKyoto U.のMatsumotoらによって続けられている。これらの長尺化が進んでいるグループのYBCO膜はすべてPLDで成膜が行われている。米国のプロジェクトが本格長尺化は非真空プロセスで進めようとしているのと対照的であるが、欧州でもGoettingen のFreyhardtのグループは円筒にテープを巻き付ける方法によってPLDで大面積成膜を実現して高速化をおこなった。特性もMA/cm2を越えており、彼らの計画では2003年の終わりに1kmを目標としている。実現すれば日米を抜いて一躍トップとなるわけであるが、GoettingenはエキシマーレーザのLambda Physik社の根拠地でもあり、威信にかけても達成するかもしれない。現状ではレーザのコストが問題であるが、固体化した強力なパルスレーザが開発されれば最終プロセスとなる可能性も秘めている。何しろ現在までの幅1cmあたりのIc記録の600A(LANL)はPLDプロセスによるものであり、プロセスの完成度としては高い。

 CVDに関しては、酸化物単結晶基板上ではあるが高いJcが報告されている。Freyhardtの基調講演の中で紹介されたGrenobleのCVDグループの結果で、LAO、STO上で6-7MA/cm2、CeO2/YSZ上で4MA/cm2の高い値が得られている。diglymeあるいはmonoglymeを溶媒にtetraglymeを配位させたthd原料を用い、溶媒と原料の分離機構をもうけた炉を用いている。ほかにもCVDプロセスを用いた金属基材上への成膜として配向銀上で0.3MA/cm2を出していたフジクラの研究が印象に残った。

 配向銀テープ上に直接成膜で高い特性が得られれば、保護層成膜不要で手っ取り早くローコスト線材ができあがる。この方向での検討は国内が中心でフジクラのCVDおよび東芝がPLDで行っているがめざましい高Jcはでていないが長さの点では着々と成果を上げつつある。銀のコストもクラッド等で節約し、LPE法などの援用で、案外高特性が期待できるかもしれない。

 我国ではフッ素系プロセスとして、TFA-MOD法の研究が盛んである。SRLのYamadaはin-situ導電率の測定から、JFCCのHirayamaらはTEMの組成分析の結果から、結晶成長機構を論じた。また2インチ試料のJc分布。表面インピーダンス、10 cm長IBAD基板上へのディップコートによる成膜結果など最新の成果も発表された。特性としては2インチLAO上の膜がJc=7.8 MA/cm2@77K、IBAD上では2.5 MA/cm2(@77 K)と高い値を出している。TFA-MODプロセスは高いJc特性が得られるが厚膜化が困難であるが、SWCCおよびSRLでは繰り返し塗布の条件を見いだし厚膜化に成功している。

 そのほかに特に注目すべき結果として、MCT社のCCVD(Combustion CVD)があげられる。CCVDは有機溶媒に溶かしたCVD原料を、常圧で燃焼させ、プラズマ状態を作り成膜する方法で各種酸化物を高速でローコスト成膜法として有望視されている。23年前よりORNLと契約を結び、基材の提供を受け、中間層形成やYBCOの超電導層形成を行っていた。今回この簡単な方法でRABiTS上にSTOバッファ層、CeO2キャップ層をCCVDで形成したCCVD-RABiTSの上にPLD法でMA/cm2クラスのYBCO膜を得ている。またCCVD法によるYBCO膜もLAO上では1 MA/cm2を越えている。この方法はBaF2 ex-situ プロセスやTFAプロセスと並んでコストパーフォーマンスで登場してくるダークホースとして注目に値しよう。

 LPEによる線材化に関しては、SRLが10 cmクラスの金属上への成膜を発表した。Ni基材上へはNiを飽和させた溶液を中間層に用いる方法で、銀基材上へはフッ化物添加+低酸素分圧を用いる方法で、連続成膜に成功している。特性に関しては現在までのところ、後者の方法で、金属上に高Icを実現する一歩手前まできている。英国Imperial CollegeのDriscollらはSOE中間層のNiO平坦化、成長のための種結晶層成膜を含むY系線材の全プロセスをLPE法で実現することを考えている。そのために、NiOおよびNd2CuO4のLPE成長を検討した。超電導層はYbの混晶系を用いて、単結晶上によい結果を得ている。まだ金属上へのYBCO成膜には成功していないが、成功すれば高速ローコストプロセスとして脚光を浴びるであろう。

 応用に関しては二日目のランプセッションで討議がおこなわれ計7件の発表があった。Bi系線材のみである。Kyushu UのFunakiらはBi2223を用いた超電導変圧器のフィールドテストの結果を発表した。単相の22kV/6.9kVで従来の変圧器の半分のサイズである。また効率は99.4%にたかまっている。Waukesha Electric SystemsのMehtaらは変圧器の概念設計とともに需要のTime windowにもふれ、ここ5−10年ぐらいの取り替え時期を逃さず、開発する必要を訴えた。HitachiのOkadaらはBi2212のROSAT線材で3.5 kmの世界最長記録を達成した。またこの線材をもちいて1 GHzのNMR開発が物質材料機構と共同でおこなわれていることを紹介した。PirelliのNassiらは欧米で進んでいる高温超電導ケーブルのプロジェクトを紹介した。特にDetroitのFrisbie変電所での試験準備の様子は本格的実用化が近いことを感じさせた。泥水に浸かった管道にケーブルを曲げて導入し、劣化させずに安全に敷設できることを強調していた。本格的な試験は今年度後半に400フィートの長さで100 MWの通電を行うことになる。ToshibaのKubotaらはYBCO膜を用いた抵抗転移型の限流器について発表を行った。基板に乗せたNi金属膜と12 cmのYBCO膜を一定の間隔でインジウムで短絡する事により並列に金属膜を挿入した超電導体が直列接続された形の素子を提案した。この素子は最大電圧降下が43 V/cmになり、1800 Aを400Aに限流する。長さに関しても従来の設計の10分の1程度で要求が満たされることとなる。今後の実用レベルの大型化が期待される。

(Hi-Jc.COM)