SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.4, Aug. 2001

12.2 K 以下まで冷却できる小型冷凍機を開発
高磁場用超伝導マグネットの低コスト化に期待
_物材機構と東芝_


 物質・材料研究機構は、東芝と共同で 2 K 以下まで冷却できる小型冷凍機を開発したと発表した。1.8 K で 0.6 W、2.0 Kで 1.9 W の冷凍能力を有し、高磁場 NMR 等の冷却システムとして普及が期待される。

 これまでも加速器用の空洞共振器や超伝導マグネットなどを 2 K レベルまで冷却できる冷凍機はあったが、大型のシステムに用途が限定されていた。最近、たんぱく質の構造解析などのための高磁場 NMR への需要が高まってきている。例えば 800 MHz 級 の NMR では、 18.8 T という高い磁場が必要である。この磁場を発生させるために超流動ヘリウム冷却によって超伝導特性を最大限まで高める必要があるが、超流動ヘリウムは扱いが繁雑である。物質・材料研究機構ではここに着目し、簡便に2 K を実現できる小型で高効率な冷凍機を開発した。この小型 2K 冷凍機の詳細は、7月16日より米国・ウィスコンシン州で開催されたCEC/ICMC 2001 で発表された。

 冷凍機は、小型 4K 冷凍機として普及している GM/JT 方式をベースにしている。JT 系の低圧ラインに真空ポンプを組み入れ、JT 系の低圧圧力を 3 kPa 以下まで下げる (4.2 K 冷凍機では低圧側が 0.1 MPa。) ことで 2 K 以下への冷却を可能にしている。この方式の小型 2K 冷凍機としては冷媒に 3He を用いたシステムで 2 K を達成した例はあるが、3He が高価なため普及するに至っていない。今回、物材機構と東芝は、圧力損失が小さくかつ高効率な熱交換器を開発することで冷媒に 4He を用いた 2 K 冷凍機を開発することに成功した。開発した熱交換器は、高圧流路となる銅管を巻いたものの内側に銅球を充填して低圧流路としている。銅球同士あるいは銅球と銅管を接合することで伝熱面積を拡大し、熱交換効率を高めている。この構造が低圧力損失と高効率という相反する要求を満たすことを可能とした。

 開発した 2K 冷凍機は、冷凍能力が1.8 K で 0.6 W、2.0 Kで 1.9 W と超伝導マグネットの冷却に十分な能力を有している。また JT 系の高圧圧力の最適化などによる効率向上が図られ、全入力が 8.8 kW に抑えられている。その結果、2 K での FOM(Figure of Merit) が 0.032 となり、FOM 換算では従来の 4.2 K 冷凍機を上回る効率を達成している。

 このように 2K 冷凍機として十分な性能を、冷媒に4He を用いることで低コストで実現したことに加え、この冷凍機は既存の技術をベースとしているため信頼性や使い勝手にも優れている。これを用いて液体ヘリウム不要の冷凍機冷却式の高磁場超伝導マグネットを構成することも可能となった。物質・材料研究機構、強磁場研究グループの佐藤明男主任研究員によると、「この 2K 冷凍機は18T 以上の高磁場用超伝導マグネットの冷却に限らず、より低い磁場の超伝導マグネットの冷却への応用も期待される。例えば 2 K に冷却することで安価な NbTi 線材だけでも10 T以上の超伝導マグネットをつくれる。あるいは 15 T 以上の超伝導マグネットでも高価な Nb3Sn 線材の量を減らせるから線材コストを低減できる。冷凍機と合わせたマグネットシステムとしてのコストを引き下げることも可能だろう。」とのことである。

 この冷凍機の出現により、従来大型冷凍機を用いた超流動ヘリウム冷却超伝導マグネットも小型冷凍機によって無人で運転されるようになるだろう。

(つくばのgama)