SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.4, Aug. 2001

11.パルスコイル用金属系超電導多芯線における
交流損失測定の標準化作業の進展状況


 近年、SMES、限流器、核融合装置、超電導発電機等のパルス運転あるいは商用周波数で運転される超電導応用装置の開発が活発となり、超電導線材の交流損失に対して試験評価方法の標準化の重要性が増大してきた。これまでに、このような多様な使用条件の中でその第1段階として、パルスコイル用超電導線線材に対して、VAMAS(Versailles Project on Advanced Materials and Standard)の活動の中で金属系超電導多芯線の交流損失測定の標準化のための準備的な作業が進められていたが、その成果を受継いで、超電導線材の諸特性の測定法標準化を進めているIEC/TC90(International Electrotechnical Commission / Technical Committee 90)においても交流損失の測定法標準化に向けて作業が開始された。この国際協力事業の幹事国でもあるわが国では、平成6年度から、国内WG(ワーキンググループ)を設けて標準化への取り組みが協議され、平成9年度から、VSM/SQUID法やPickup coil法を用いてCu/NbTi超電導線材の交流損失の標準化に向けた検討が行われた。1)これを受けて平成10年度には、IEC/TC90国際会議(Frankfurt)において交流損失測定法の標準化のNP(New Work Item Proposal 新業務項目提案)が了承され、この合意に基づいて国際的に交流損失WG(WG9)が設立された。この提案では、標準化のうち「VSM/SQUID法による外部横磁界中での交流損失の準静的リミットとしてのヒステリシス損失」を米国、「Pickup coil法による結合損失を含む外部横磁界中での全交流損失」を日本が担当し、両者の測定法の標準化を同時に進めることになった。平成11年度には、国内においてWD(Working Draft 作業原案)作成のためにPickup coil法での結合揖失を含む交流損失のRRT(Round Robin Test 持ち回り試験)を8機関の協力を得て実施する2)と共に、このRRTの結果に基づいてWDが作成されている。米国のVSM/SQUID法のWD共々、IEC/TC90国際会議(Montreal)のWG9分科会で議論され本会議で作業の継続が了承されている。

 Montreal会議での議論に基づいてWDを手直ししたCD(Committee Draft 委員会原案)について、平成12年3月にBoulderで開催されたWG9分科会で調整作業が行われ、同年9月のIEC/TC90国際会議(Virginia Beach)でCD stageへの移行が承認された。実際のCDは、この会期中に行われたWG9分科会での議論に基づいて、VSM/SQUID法については、Magnetometer法と改め、VSM法を主方法として本文で取り上げ、SQUID法を従方法としてAnnex(添付書類)でとりあげることとなっている。さらに、Magnetometer法とPickup coil法のそれぞれのCDに両者の相互関係を明示して両原案の独自性を確保することにより、同時進行が確定した。

 並行審議されているCDの骨子は以下のとおりである。

1.Magnetometer法

 この原案は、Cu/Nb-Ti複合多芯線(円断面)の横磁界中でのヒステリシス損失測定の標準化を対象にしている。測定周波数領域は、0 Hz - 0.06 Hzである。準静的リミットとしてヒステリシス損失を測定する。pickup coil法とは0.005 Hz - 0.06 Hzの周波数領域が、相補的な領域として設定されている。VSM(vibrating-sample magnetometry)とSQUID(superconducting quantum interference device)法がMagnetometer法の標準的測定法として挙げられているが、1原案1測定法の原則から、VSMが主測定法、SQUID法が従測定法となっている。

2.Pickup coil 法

 この原案は、パルスコイル用Cu/Nb-Ti複合多芯線(円断面または矩形断面)の交流横磁界中での全交流損失測定の標準化を対象にしている。測定周波数(または掃引速度)領域は0.005 Hz - 1 Hz(0.02 T/s - 4 T/s)である。線径(または断面平均寸法)、フィラメント径、結合時定数についての対象領域は、それぞれ、0.2 mmから1.0 mmまで、1 μmから50 μm程度まで、40 ms程度以下である。ヒステリシス損失は、全損失測定の周波数依存性を用いて、周波数ゼロの極限値として求められている。また、全交流損失とヒステリシス損失の差を結合損失としている。

 現在、2つのCDについて各国の委員会で議論された結果が日本の担当するTC90事務局(幹事:佐藤謙一氏、住友電工)でまとめられ、その議論内容に基づいた修正などを経てそれぞれのCDをCDV(Committee Draft for Vote投票用委員会原案)へ移行する作業が米国と日本で進められている。本年9月にソウルで開催されるIEC/TC90国際会議で、修正後の原案の内容やCDVへの移行が審議される予定である。

 2つの原案のうち日本が担当しているPickup coil法については、パルス用超電導線材として使用される三層構造NbTi線やCuNi/NbTi線等を対象とするようにPickup coil法の法案を拡張するための準備作業が進められる予定になっている。また、最近では、ビスマス系酸化物超電導線材を中心に幅広い超電導線材の交流損失測定の標準化に対する要求も高まりつつある。「酸化物超電導線材の各種応用もにらんで、パルスコイル用金属系超電導多芯線を対象として初めてまとまりつつある交流損失の標準化作業の成果をベースに、線材形状、使用条件に即したさらに拡張された損失測定法の標準化作業を提案することを考える時期にきている」とは、pickup coil法の法案作成取りまとめ役の船木和夫教授(九州大学)のコメントである。

参考文献
1) K. Ohmatsu et al.: "Standardization of the test method for a.c. loss measurement of Cu/Nb-Ti composite superconductors", Adv. In Supercond. XI (1999) p.1499
2) NMC: 平成11年度通産省委託「新発電システム用超電導材料の標準化に関する調査研究報告書」(平成12年3月)

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