SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun. 2001

8.MgB2線材の動向


 MgB2は金属系超伝導体の中では飛び抜けて高いTcを示すだけでなく、結晶粒の結合が強いために結晶粒の方位を揃える必要がないことや、原料が安いことなどから応用上有望であると考えられ、発見以来世界中で線材化の研究が活発に進められている。最初にMgB2の線材を作製したのはAmes研のグループで、ボロンワイヤーをマグネシウム蒸気のもとで熱処理をして作製するものであった。Jcは高密度のMgB2が得られることもあって5 K、ゼロ磁界で〜400,000 A/cm2(磁化法)と非常に高い。しかしながらその後の線材化研究は、粉末を金属管に詰め込んで加工する、いわゆるPowder-In-Tube(PIT)法が主流である。ここでは、このPIT法MgB2線材の動向について概観する。

 MgB2のPIT法は二つに大別される。その一つはMg+Bの混合粉末を使うものであり、もう一つは反応したMgB2の粉末を使うものである。MgB2のPIT法のポイントの一つは金属管として何を使うかである。MgB2を生成するための熱処理、あるいは焼結は、通常900-1000 ℃の温度で行われるが、この温度では多くの金属がMgと反応するためにシース材として使うことが難しい。反応しない金属としては、Nb, Ta, V, Fe, Moなどに限られ、これらをシース材として使うか、あるいは内張(バリア材)として使うことが必要と考えられる。

 まずMg+Bの混合粉末を使う方法では、Wollongong 大のDouらのグループが外径10 mm(肉厚1 mm)のFe管を用い、これに化学量論組成のマグネシウムとアモルファスボロンを詰め込んでワイヤ→テープに加工した後、600-1000℃で1-48時間アルゴンガス雰囲気で熱処理してテープを作製している(cond-mat/0105152)。Tc(ゼロ抵抗)は37.5 Kで、遷移はシャープであるとしている。Jcは29.5 K、1テスラの磁界中で16,000 A/cm2としている。また、Cambridge IRCのGlowackiのグループは、Cu管を使ってテープを作製しているが、熱処理温度が620 ℃と高くすることができず、Jcは20,000 A/cm2(4.2 K、自己磁界)のレベルである(Supercond. Sci. Technol. 14(2001)193)。

 MgB2粉末を使う方法では、ベル研のJinのグループが、やはりFe管を使ってテープを作製している(Nature 411(2001)563)。外径5 mm、肉厚0.5 mmのFe管に市販のMgB2粉末を詰め込んで長さ約60 cmのテープに加工した。これより短尺テープを切り出し、900あるは1000 ℃で30分アルゴン雰囲気下で熱処理している。このようにして得られたMgB2層は非常に高密度であるとしている。Tcは39.6 Kでシャープな遷移を示した。鉄シースを取り除き、パルス電流を用いてJc測定をしており、36,000 A/cm2(4.2 K、ゼロ磁界)が得られているが、電極における発熱のために実際のJcはさらに高いとしている。ちなみに磁化より求めたJcは4.2K、0.5Tで200,000 A/cm2に上る。ただしJcの磁界依存性はかなり大きく、1.5 Tでは60,000 A/cm2に低下してしまう。この大きな磁界依存性は本線材に限らずMgB2すべての線材にいえることで、ピン止め点の導入による磁界中のJcの向上が必要と考えられる。

 一方イタリアのINFMのGrassoらは、MgB2粉末とニッケル管を使ったPIT法でテープを作製し、熱処理することなしに100,000 A/cm2の高いJc(4.2 K、ゼロ磁界)が得られると発表している(cond-mat/0103563)。ただし、磁界中のJcは報告されていない。物材機構のKumakuraらのグループは、ステンレススチールのパイプを用いたPIT法により、やはり熱処理なしでテープを作製し、4.2 K、5 Tの磁界中で10,000 A/cm2のJcを得ている(cond-mat/0106002)。5T以下の磁界では電極の発熱により、正確なJc測定が不可能としているが、磁化測定によるJcを参考にしてゼロ磁界に外挿した値は300,000 A/cm2以上になるとしている。このようにMgB2では熱処理が不要なPowder-In-Tube法が可能であり、その簡便さやコストの面から非常に興味が持たれよう。

(nhk)