SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun. 2001

6.山梨リニア実験線における技術開発の進捗状況
_鉄道総研_


 超電導磁気浮上式鉄道の開発は、平成12年3月に運輸省の実用技術評価委員会から「実用化に向けた技術上のめどは立った」と評価され、リニア技術の特性や基本的な設計などの妥当性が検証されている。平成12年4月からはこの「めどが立った」技術をさらに営業線に向けてブラッシュアップするため、新たな段階として同評価委員会より示された、信頼性・耐久性能の検証、コスト低減技術、車両の空力的特性の改善技術、を柱として、実用化に向け更なる完成度の向上を目指した走行試験、技術開発を積極的に推進している。本稿では、平成12年度までに行ってきた技術開発の成果や今後の計画について紹介する。

1. 信頼性・耐久性能の検証

 12年度は、高速での走行試験を高密度に行った。12年3月末日現在で走行距離は60,541km(累計135,969km)に達しており、この間、基本的なトラブルはなく、雪による中止以外は計画どおり走行試験を実施した。1日の走行距離では、昨年12月7日にこれまでで最高となる1029kmを記録した。これを東海道新幹線に当てはめると、東京〜新大阪往復の距離に相当する。又、加減速回数でいくと58回にのぼり、これは東海道新幹線を東京〜新大阪間の各駅に停車して、およそ2往復することに相当する。このように営業線レベルに匹敵する信頼性・耐久性の検証が行われている。13年度についても昨年度同様、営業線をイメージしつつ、積極的に高速での走行試験を継続している。また、試乗会については、秋篠宮殿下御夫妻をはじめ、たくさんの方に試乗いただき、13年3月末日現在で9,642人(累計17,422人)に達した。13年度も引き続き積極的に行う予定である。

2. コスト低減技術

 山梨リニア実験線の設備は、実験線ゆえのコストがかかったものとなっているが、現在、リニア技術のコスト低減の深度化を進めている。

(1) 新方式地上コイルの開発:リニアモーターカーが走行するガイドウェイには、車両に推進力を与える推進コイルと、車両を浮上・案内させる浮上案内コイルが設置されているが、このうち、推進コイルについて、現在2層構造となっている推進コイルを単層構造にする開発を行っている。単層化することにより小型化、単一化が可能となり製作/取付コストを低減できる。推進コイルについては、新方式ガイドウェイと共に平成14年度に山梨実験線においてフィールド試験を行う予定で開発、製作を進めている。

(2) 高効率電力変換器開発:現在の電力変換器の半導体素子にはGTO(Gate Turn-Off thyristor)が使用されている。現在、この半導体素子にIEGI(Injection Enhanced Gate Transistor)を導入した電力変換器の開発を進めている。IEGTは特性が優れていることから、素子を保護するための周辺装置などを簡素化することが可能となり、装置全体としての低損失化、小型化が図られる。平成14年度を目途に山梨実験線でフィールド試験を行うことで開発、製作を進めている。

(3) 新方式き電システム開発:山梨実験線では変換器やき電ケーブルが故障しても運転を継続できるように、ひとつの列車を駆動するのに3台の変換器と3系のき電ケーブルを用いる三重き電方式を採用しているが、さらなるコスト低減を図るため2台の変換器と2系のき電ケーブルでこれまでと同等の性能を得られる新しいき電方式を開発している。 (4) ガイドウェイ構造の改善:山梨実験線では、地上コイルを設置している側壁の構造などの差異から3方式のガイドウェイが設置されているが、現在、これら3方式を踏まえ、より施工性、保守性に優れた新方式ガイドウェイの開発を進めている。新方式はプレキャスト方式(予め工場等で製作、組立を行う方式)で製作され、形状は安定性の高い逆T形で、軽量化、施工性・保守性の向上、製作コストの低減などが図られている。

3. 車両の空力的特性を改善するための技術開発

 山梨実験線では、ダブルカスプ、エアロウェッジの2種類の先頭形状の車両でこれまで走行試験を行い、552 km/hの世界最高記録を達成するなど、リニアシステムが世界最先端技術であることを実証してきた。また、高速走行時の空力的特性については、地上設備の改良を行いながら、数多くのデータを蓄積するとともに、これまでの技術開発に成果を反映した。引き続き高速での走行試験等によりデータの蓄積を進めていくとともに、新たに空力的特性や乗り心地などを把握検証することを目的とした先頭車及び中間車の開発を進め、平成14年度中に山梨実験線に投入する予定である。

4. おわりに

 平成12年度の結果は、満足のいくもので関係者は安堵している。平成13年度の走行試験も順調に推移しており、5月半ばには、新型車両のデザインも公表され、注目を集めている。実験関係者によると、今年度は走行距離はこれまでで最長となる予定である。

               

((財)鉄道総合技術研究所 浮上式鉄道開発本部 計画部長 奥村文直)