SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun. 2001

5.溶液塗布法YBCOテープ線材で、Jcの世界最高クラスを実現
_超電導工学研究所_


 低コスト製造方式として注目されるTFA-MOD法(後述)によるYBCO線材で、臨界電流密度Jc(77 K,0T)の大幅向が報告された。これまで本方法の世界最高値としては、American Superconductor(ASC)社がISS2000(2000年10月、東京)で発表した2.1 MA/cm2であったが、今回、SRLによりさらに高いJcが得られた。詳細は3月28日に明治大学での応用物理学会、また5月16日に明星大学での低温工学・超電導学会で報告されたが(発表者:SRL名古屋研の荒木猛司・山田穣氏)、以下その概要をレポートする。

 YBCO線材は、金属基板のIBAD((株)フジクラ提供)上にCeO2中間層をスパッタ法で作製し、その上にTFA-MOD法でYBCO膜を作製した。膜厚は、2300オングストロームであった。今回、CeO2の作製条件の最適化、TFA法YBCO成膜での金属基板上での熱処理条件の最適化で、金属基板とTFA溶液との直接の反応をできるだけ避け、品質の良いYBCO膜を作れたのがJc向上の大きな要因である。

 通常、LaAlO3などの単結晶上の膜ではこれまでにSRLで7-8 MA/cm2クラスのトランスポートのJcを得ていた(誘導法Jcでは11 MA/cm2)が、金属基板は単結晶基板に比べて表面粗さや配向度が劣るなどの問題があった。このため、同じ溶液を金属基板上に塗布して成膜しても、得られるJcは単結晶基板上の膜の20%がせいぜいであった。また、TFA溶液と金属基板との反応も生じて高いJcを得ることが難しかった。今回、こうした問題を中間層CeO2の最適化とTFA-YBCO膜の作製条件を詳細に検討して解決したものである。これにより、SRLでは、金属基板上でも単結晶上の膜のJcの35%以上に高めることができ、現在では世界最高の2.5 MA/cm2のJcを得ている。

 このように次々と高いJcがTFA法で報告されているが、これは、本方法が溶液合成段階で均一に組成制御ができるためである。コンスタントに高いJcが得られる。この点も実用化に有利と思われる。

 開発にあったているSRL名古屋研主管研究員の山田 穣氏は、「まだまだ、電流の流れている実効断面積をあげることができる。組織制御をうまく行なうことで、単結晶上でトランスポートJc10MA/cm2以上、金属基板上でもさらにJcをあげることもできる。」とコメントしている。

*TFA-MOD法:Y,Ba,Cuのトリフルオロ酢酸塩原料液を基板上に塗布して、水蒸気雰囲気中、700-800 ℃程度で熱処理して、超電導膜を得る製法。PLD法と比べて、真空装置がいらず、また、プロセスも原料液を塗って焼くだけであるために、非常に低コストであり、実用化向きと言われている。米国のベンチャー企業のASC社では、この製法に注力中という。

(HiTcJapan.com)