SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun.2001

4. 920MHz(21.6T)の永久電流モードで運転開始
_物材機構、神戸製鋼の超伝導NMRマグネット_


 物質・材料研究機構強磁場研究グループは(株)神戸製鋼所と共同で、超高磁場超伝導NMRマグネットを開発している(本誌Vol.8, No.1, 1999通巻37号参照)が、2001年4月より、920 MHz(21.6 T)での永久電流モードの運転を開始した。

 物材機構では文部科学省超伝導材料研究マルチコアプロジェクト第U期の一環として、1 GHz級NMRマグネットの開発を行っている。これはNbTi及びNb3Snの金属系超伝導線材を使用する外層マグネットにBi系酸化物線材で作製した内層マグネットを組み込んで、プロトンの核磁気共鳴周波数1 GHzに相当する磁場23.5 Tを発生するNMRマグネットを開発する計画で、2002年3月の完成を目指している。

 金属系外層マグネットについては(株)神戸製鋼所との共同開発を行ってきたが、Nb3Sn線材の内層マグネットを組み込むことにより、1999年21.17 Tの磁場を永久電流モードで発生することに成功し、900 MHzNMRマグネットの一番乗りを果たしている(本誌Vol.9, No.1, 2000.2通巻43号参照)。

 この記事でも述べられていたようにマグネットは設計上920 MHzの高分解能NMRマグネットとして動作することが期待されていた。NMRマグネットでは磁場の安定度が非常に重要な性能であり、10 Hz/h以下であることが要求される。900 MHzで行った長期間の永久電流モード運転では磁場安定度として1.5 Hz/hと優れた値が得られており、920 MHzでも良好な性能を発揮できると予測された。このため冷却システムをより低温で効率的に運転できるように改良して、920 MHzでの運転を行った。

 2001年4月16日に21.64 Tの最高磁場を経て920 MHzの永久電流モードに移行した。20日にNMRプローブを取付け中心磁場の測定を開始した後の中心磁場の変化を図1に示す。超伝導シムコイルによる部分的な均一度の調整を行うことにより、中心磁場は増加から減少へと挙動が変化しているが、図1の最後3日間のデータから得られる安定度は3 Hz/hと極めて良好であり、さらに良くなる傾向を示している。

 強磁場NMRマグネットについては本誌Vol.9, No.5, 2000.10通巻47号にオックスフォード・インストゥルメンツ社が900 MHzNMRの実測データを公表する記事が掲載されるなど、タンパク質の立体構造解明と新薬創製を目指してホットな開発競争が繰り広げられている。開発を指揮する物材機構強磁場研究グループの和田仁主幹研究員は、「900 MHz(21.1 T)を越えるNMRマグネットでは、強磁場における超伝導線材の性能が決め手となるため、超伝導線材の開発によって成否が決まる。超伝導線材の開発に要する時間を考えると、少なくとも今後数年間は、本マグネットを越えるものは出現しないのではないか。超伝導NMRマグネットの最高性能機種が世界に先駆けて日本で開発されたことは、世界最高の放射光施設Spring8とともに、タンパク質の機能解明とその先にある画期的な新薬創製にとって最強の研究ツールがわが国に揃うことになり、ライフサイエンス分野における技術開発競争に大きく展望を拓くと期待される。」と語っている。

(ピカチュウのパパ)