SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun. 2001

3.次世代用Y系テープ線材で20倍の製造速度
―10 mY系超電導線材で実証―
フジクラ材料技術研究所、中部電力電力技術研究所
超電導工学研究所


 5月14日行われた新聞記者会見で、潟tジクラ、中部電力葛yび超電導工学研究所は、高特性を有するイットリウム(Y)系超電導テープを従来の20倍の速度で作製する技術開発に成功し、これを10 m長線材で実証したことを明らかにした。Y系超伝導線材はその優れた強磁界特性のために、次世代超伝導線材として注目されていたが、長尺線材としての製造方式が確立されておらず、フジクラの開発したIBAD法と呼ばれる新方式に世界の注目が集まっていたものである。

 フジクラが開発したIBAD法は、高い配向性を有した中間層を成膜する技術でありこの上に成膜した超電導膜で従来から短尺で100万A/cm2のJc(臨界電流密度)を得ることが可能な有望な手法とされていたが、成膜速度が遅く、これによる線材の製造速度が低いことから実用化線材作製に対して危惧されていた。今回の成果は、IBAD装置の大型化、同イオンビーム形状の適正化等により大面積安定成膜を実現し、更に配向制御性の高い新しい中間層材料の発見により達成されたもので、従来の課題を解決し、高特性線材の高速成長を実現したものである。この技術は、実際に長尺線材作製で試され、1 m/hの製造速度で作製した10 m長のイットリウム系超電導テープで40万A/cm2液体窒素温度の臨界電流密度を実証した。また、これを長尺で達成したのも世界で初めての成果である。

 今回の成果により、50~100 mの高特性長尺線材によるケーブル応用やマグネット応用が見込める事となり、日米で開発競争が続いているイットリウム系超電導線材開発において大きな前進をしたことになる。

 現在、高温超電導線材開発においては、ビスマス系超電導体を用いた銀シース線材での応用が始まり商業ベースに載ったところであるが、その応用範囲は磁界特性上の制限があり、磁場特性に優れ、液体窒素温度(77 K)での使用が見込めるRE123系 (RE=希土類)酸化超電導材料を用いた次世代線材の開発が強く求められ、日本、アメリカを中心に世界的に開発研究が進められている。日本では、超電導応用基盤技術研究体の研究として、新エネルギー産業技術総合開発機構から委託されたISTECが複数の再委託企業と共に、様々なプロセスによる検討を始め、確実に成果が挙げられつつある。今回の成果は、フジクラが基本特許を有しているIBAD法を、本プロジェクトにおいて実応用へ展開すべく行っている開発研究で達成されたものである。

 IBAD法は、低エネルギーイオンビームを用いて、無配向の金属テープ上に単結晶的に結晶配向した中間層を形成する技術で、平成2年にフジクラによって世界に先駆けて開発された。この配向中間層上にRE123系超電導層を形成すると、単結晶と同等の高特性が極めて安定して得られる。RE123系線材の製法は他にも多数提案されているが、IBAD法による中間層は配向性が非常に高いだけでなく、表面が極めて平滑(粗さ数nm以下)で、結晶粒が粗大化しないという、他の方法で実現しにくい有利な特徴を有しており、安定した長尺特性が得られる可能性が高いと考えられていた。しかしながら、製造速度の面で課題があり、実応用への展開にはこの課題の解決が望まれていた。

 今回、フジクラ及び中部電力は、超電導工学研究所と共同で、IBAD法中間層の長尺製造設備を新しく開発し(図1、2)、大面積で安定した成膜条件を得ることに加えて従来の中間層材料であるYSZに比べて薄い膜厚で高い配向性を示すパイロクロア型酸化物Zr2Gd2O7を使用し、その成膜条件の最適化に成功した事により、従来の0.05 m/hから約20倍になる1 m/h程度の速度を実現し、これを10 m長の均一な配向中間層形成で実証した。本中間層上にエキシマレーザー蒸着法によってY-123超電導材料を同様に1m/hで積層した結果、9.6 m長において、臨界電流値50A, 臨界電流密度4.2x105 A/cm2が得られた(図3)。10 m級の試料でこれだけの高特性が確認されたのは今回が世界で初めてである。従来イオンビーム、エキシマレーザー等のビーム応用機器は研究用に開発されたものが多かったが、近年こうした技術の工業応用が加速度的に進み、数100時間の連続運転に耐えるものも開発されており、IBAD法を用いることによって、高特性のY-123線材の長尺合成が可能であると判断できる段階に至った。なお、8 cm長においては臨界電流値140 A, 臨界電流密度120万A/cm2が得られており、長尺における今後さらなる特性向上が期待される。

 これについて、超電導工学研究所所長の田中昭二氏は「超電導の次世代線材を開発する日米欧レースで日本が大幅にリードした。2005年以降には同超電導線材がトライアルで使われるだろう」と語った。また、フジクラ材料技術研究所金属材料開発部部長の齋藤 隆氏は「今回の成果を基にして100mを越える線材が実現すればY系線材を用いた機器の応用研究が加速する」とコメントしている。

        

(DYF)