共同開発した高温超電導マグネットは、長尺線材の開発を超電導導体の線材開発で実績のある住友電気工業が、マグネットの設計・製作は多くの超電導マグネットの開発・製造実績のある東芝が、単結晶引上げ装置用マグネットとしての実用性の検証は超電導単結晶引上げ装置を初めて実用化した信越半導体が担当した。また、本プロジェクトの遂行に関しては、財団法人国際超電導産業技術センター超電導工学研究所の田中昭二所長の指導を受けた。
住友電工では、高温超電導線材の長尺化の面で1,900 mと世界最長の線材を開発するとともに、マグネットに必要な800 m級線材として液体窒素温度77 Kで最大34 kA/cm2の臨界電流密度を有し、使用時の大きな電磁力に耐えうる高強度の線材の量産技術を開発した。本プロジェクトでは、単長800 m、臨界電流が30~70 AのAgシースBi2223線材を108本、総長で80 kmが使用されている。
東芝では、超電導性能の劣化の原因となる線材ひずみを微小に抑える高温超電導コイルの巻線技術、コイル冷却時の熱歪、励磁時の電磁力による歪を小さく抑えるコイル構成、そしてテープ線材の臨界電流の磁場異方性を考慮し線材の使用量を大幅に低減するコイル断面形状、さらにはパルス通電時の電流偏流による損失の増加を抑える転位方法など高温超電導マグネットに必要な様々なコイル設計・製造技術を確立した。また、実際マグネットの励磁試験を行った東芝電力・産業システム技術開発センターの小野通隆氏は、「同種の低温超電導マグネットでは20〜30分かかる励磁が1分足らずでいとも簡単にできてしまう現実に直面し、高温超電導の安定性の高さに改めて感心させられる」と語っている。さらに、低温超電導とは異なるクエンチ形態を示す高温超電導コイルの保護(クエンチ検出、保護方法)に関しても様々な知見が得られはじめており、今後様々な追加試験を実施していく予定である。同センターの栗山透氏は「低温超電導磁石で経験するような急激なクエンチ現象を高温超電導磁石は示さない。その意味でははるかに使い易いものである。今回の試作で得られた最大の成果は、"高温超電導で実際の産業規模の大きさの磁石が作れる"ということを身を以って経験できたことであろう。実用に向けての課題は、後はコイル用線材のコストの問題となってきた」とコメントしている。
本試作磁石は単結晶成長用としての必要な仕様を満足することが示され、今後は、磁石の交流損、過酷な使用状態に対する磁石の応答などについての試験がさらに継続される。
(高温超電導vs低温常伝導)