SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun. 2001

16.最近の新磁気科学分野に関するレビュー


 新磁気科学分野は、酸化物の超伝導電流リードの実用化に伴い冷凍機伝導冷却方式の超伝導磁石が開発された事を契機として、94年ごろから盛んになってきた研究分野である。超伝導分野の研究が、より発展してゆくためには、超伝導の応用分野の裾野が広がってゆく必要がある、という観点から、本誌でも新磁気科学研究の進展に関しては、逐次、レポートしてきている。本誌読者層ともかかわりの深い低温工学協会でも同様の観点から、この分野の研究進展に関する調査研究会が95年度から継続されている。先ごろ、第2期最後の調査研究会が開催され、東京大学大学院新領域創成科学研究科の廣田憲之助手により、最近6年の新磁気科学研究に関してレビューが行なわれた。

 初期の頃は、室温の空間に10 T級の磁場を発生する事のできる超伝導磁石を所有する研究室も少なく、実験機会がまだまだ限られていたためか、現象の報告のみにとどまり、機構解明にまで到達している研究は少ないように感じられたという。フランス・グルノーブルのBeaugnon, Tournierによる反磁性物質の磁気浮上や、九大(現・東大・医)の岩坂, 上野らや東大の廣田, 北澤らにより報告された反磁性・常磁性の液体の形状が変形するモーゼ効果などが、広く一般に大きなインパクトを与え、いくつかの学会で特別シンポジウムが開かれたり、新磁気科学に関する特集をした学会誌が発行されたりするようになった。そして、科技団のプロジェクトや、最近では、学振の未来開拓プロジェクトに採用されるに至り、研究者人口も増え、冷凍機伝導冷却方式の超伝導磁石も普及した事で、最近では、磁場効果発現の機構に関してもさかんに報告されるようになってきている。また、結晶成長や、物質分離などをはじめとする各種のプロセス制御に利用しようとする動きも活発化してきており、今後の展開が期待できるという。

 当日の講演では、日本での新磁気科学研究ブームの引き金ともなった、反磁性物質の浮上実験を最初に報告し、廣田氏ともかかわりの深い、フランス・グルノーブルの研究グループに関しても紹介が行なわれ、これまでの成果や最近の展開、フランスにおける磁気科学研究をとりまく話題などに関しても紹介された。

 なお、低温工学協会では、新磁気科学に関連する3期目の調査研究会「新磁気科学調査研究会」を今年度からスタートさせるという。年3回の予定で、内外から新磁気科学研究に携わる最前線の研究者を招聘し、活発なディスカッションを行なう。参加には低温工学協会の会員である必要はなく、興味をお持ちの方は誰でも歓迎という。参加費はコーヒー代程度。今年度の第1回は7月中旬にフランス国立科学研究センターのDr. E. Beaugnon氏を予定しているという。参加希望、問い合わせは、主査の廣田憲之氏(tel 03-5841-8389, fax 03-5841-7195, e-mail: hirotan@k.u-tokyo.ac.jp)まで。

(les Bleus)