今回磁束線観察に成功したポイントは(1)FGF膜と試料の距離を可能な限り近付けたことと(2)微少磁場でのファラデー回転角が大きい磁性薄膜を用いたことにある。超伝導内を貫く量子化磁束線は図1(a)に示すように試料表面で急速に発散するため、試料表面とFGF膜の距離が遠いと平均化された磁場分布しか観測することができない。そこで、彼等は試料とFGF膜の距離をできるだけ小さくするために、従来FGF膜と試料の間に配置していた反射層をなくし、試料そのものをmirrorとして用いること、および、試料とFGF膜をクリップを用いておしつけることで、試料とFGF膜を密着させることに成功した。またFGF膜として(Bi,Lu)3(Fe,Gd)5O12という低磁場で大きなファラデー回転角をもつものを用いている。図1(b)及び(c)にそれぞれ地磁気下および3Oeの印加磁場下で4Kまで冷却した時のNbSe2の磁束線観察の結果を示す。この他、動的挙動の観察結果については、web上のムービーでみることができる。(http://www.fys.uio.no/faststoff/ltl/)
磁束線の観察法にはビッター法(磁気修飾法)、磁気力顕微鏡、STM、ローレンツ顕微鏡などさまざまな方法があるが、ビッター法やSTMは磁束線の動的挙動の観察には適さず、またローレンツ顕微鏡は装置が非常に高価である上に厚い試料の観察に向かないなどの欠点があった。本方法では、試料表面が平滑でありさえすれば、原理的にはどんな試料にも適用可能であり、また磁束線の動的挙動を実空間で観測できるというメリットがある。今後、電流を流した状態での観察や高温超伝導体等の観察など、様々な方向への研究の広がりが期待される。
(ぽんちゃん)