SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun. 2001

14.最近のSQUID応用
_STAR Cryoeletronics社_


 Superconductor & Cryoelectronics 誌2000年秋季号に米国STAR Cryoelectronics社のR. Cantor社長による冒頭の解説論文が掲載されており、以下に要約して紹介したい。

 SQUID装置は、そのユニークな特性の故に、非常に多様な範囲の応用において従来技術に対比して高性能の優位性を提供し得るものである。これらの応用には、基礎科学研究用の実験室的測定装置や生体医学用画像化システム、諸材料の非破壊試験または評価装置、地球物理的地図化及び不発爆発物の探知器など実地で採用可能な応用機器が含まれる。SQUIDが顕著な性能優位性を実際に示す2〜3の実例について、以下で紹介することとする。

【基礎研究分野】

 SQUID装置は、非常に重要な新しい科学実験に不可欠の測定器具である。というのは、SQUIDによって従来技術の104〜105倍の高感度で、測定が可能になるからである。典型的には、SQUIDは微弱な信号電流を測定する超高感・低インピータンスの前置増幅器として使用されるか、他形式の極低温検出器あるいはセンサーの信号を読み出すために使われる。SQUIDは、通常FRP製集合体に収納されており、当集合体にはSQUID側入力と、超伝導接続する為のスクリュー端子と取り外し可能な超伝導シールド装置(外界のノイズからSQUIDを遮蔽する)が備え付けられている。極めて高い感度、非常に速い周波数応答及び低入力インピータンスを有する為、SQUID装置は種々の物理量をこれまで以上の高解像度で測定する多数の測定システムに採用されている。最初の例は、アルバカーキイ市のニューメキシコ大学で開発中のDYNAMX(微小重力実験における臨界ダイナミックス)である。この装置は、国際宇宙ステーション計画(ISS)向けに、NASAにより最初の基盤的物理ミッションの一部として選択されたものである。2005年5月打ち上げ予定のSQUID装置は、例外的高水準の実験制御により、液体ヘリウム中での超流動転移を研究することになっている。この研究を実行するため、DYNAMXでは純パラジウム(Pd)母材中のマンガン(Mn)希釈イオンの磁気帯率測定に基づいた、新型の常磁性帯確率温度計を開発している。微小な温度変化は、PdMnの帯確率に大きな変化を生み、従って磁界中で大きな磁気変化に帰着する。超伝導線ループ中のこの微小磁気変化により、SQUIDの出力電圧は大きく増加する。SQUIDの高感度性により、DYNAMX温度計は100億分の1度(0.1 nK)程度の温度変化を検出可能であり、温度計のドリフト率は、0.1 nK/hr以下である。宇宙向け基礎物理実験は、SQUIDなしには実現できないだろう。基礎重力実験には、重力プローブB(GP-B)実験や等価原理の衛星試験(STEP)などが含まれる。これらのプロジェクトでは、夫々超伝導ジャイロスコープと超伝導検証物質がSQUID読み出しと共に使われる。これらの実験は、重力物理における最も基礎的理論をテストするために設計されており、SQUID読み出しにおける特段の感度に依存している。

【生体医学画像化装置】

 脳磁気地図(MEG):今迄、SQUIDに対する最大の需要は、生体医学イメージングの応用から来ていた。過去10〜15年に亘り、100 fT(1fT=10-15 T)オーダの脳磁気を画像化できる多チャンネルシステムの開発を目指して、多大の開発努力が払われてきた。典型的なMEGシステムは、ヘルメット状低温デユアーの底に配置した100〜200個のSQUIDセンサー列から成り立っている。最高の感度とコスト低減を達成する為、最近の商用SQUIDシステムはLTS(低温超伝導体)-SQUIDを液体ヘリウム中で稼動させている。これらのシステムでは、センサーと頭蓋骨の間隔は、約2 cmである。臨床環境における背景ノイズ中の脳からの極めて微弱な信号を捕捉するのは、非常に困難な技術的挑戦といえよう。この挑戦を達成する一つの方法は、背景ノイズを大幅に減衰させうる磁気シールド室(MSR)を利用して測定することである。しかし、そのような部屋は非常にかさばり、且つ極めて高価なので、広範な用途には適さない。もう一つのやり方は、磁界測定の為グラジオ(差動型)メータを用いる方法である。これらのセンサーは、近くの磁気源に対しては鋭敏であるが、離れたノイズ源に対しては殆ど反応を示さない。主センサーチャンネルあるいは分離した参照センサーを用いれば、もっと高次のグラジオメータを形成できる。このように多様な方法を用いて、近年では多くの商用MEGシステムが数社から供給されている。これらの供給者には、サンディゴ市の4-D Neuro Imaging(以前のBTi)、ヘルシンキ市のNeuromag Oy、バンク―バ市のCanadian Thin Films(CTF)、最近では金沢市のEagle Technologies等が含まれる。図2にあお向けになった患者用に設計されたEagle Tech.のシステムを示す。当デュワーは、通常はデュワーを支持するのに必要なガントリーを省くように設計されている。このシステムは、金沢工大で開発された後、日本国内での商用販売の為横河電機に技術移転されたものである。近年、MEGは精神分裂病、癲癇、小児病、精神的外傷を研究するために使用されており、脳機能の前外科手術的位置特定にも利用されている。

 MEGの時間的解像度は、1msかそれ以上であり、空間的解像度は2〜3mm程度である。空間的解像度に関してはfMRI(高機能型磁気共鳴画像化装置)の方がより優れた画像が得られるが、MEGに匹敵する時間的解像度は他のどんな装置によっても達成できない。それで、最近はMEGとfMRIの融合により、脳機能をより深く理解する試みがなされている。この領域の研究推進を目指して、脳機能イメージング研究機構(NFFBI)が、'99年アルバカーキ市に設立された。

心磁気地図(MCG):心臓病は、米国及びヨーロッパで最も高率の死因とされ、日本でも増加傾向にある。心臓病を検出する技術は、従来大きな限界があった。比較的安価な心電計やエコー心電計は、充分な信頼性を持たず、一方PETとSPECTなどもつと精度の高い画像化装置は大変高価で一般には使用されない。外科手法やカテーテル使用は、極めて侵襲的であり、日常の診断や心臓病の検出用機器には適さない。その点では、MCGは全く非侵襲的であり、心臓病の早期診断の新しい手段を提供するものである。MEGと同様に、MCGシステムはSQUIDに基づく多チャンネルシステムであり、心臓が発生する微小磁界(脳磁界の10〜100倍大きい)の画像化が可能である。MCG測定により、虚血のような心臓循環器病の予兆をより高い信頼度で検出でき、それ以外では手術など侵襲的手法でしか得られない高水準の情報を提供し得るものである。最近、スケネクタディ市に設立されたCardio Mag Imaging社(CMI)は、高感度SQUIDグラディオメータとノイズ打ち消し技術を援用した商用MCGシステムを開発した。当システムは、非遮蔽環境での運転が可能である。遮蔽室を使用しないことで、大幅なコスト低減になり、臨床的応用がより魅力的になっている。

【非破壊検査】

 SQUIDは、種々の材料中に存在する微弱な固有磁界または誘起された磁界を非破壊的に地図化する多数の応用分野で使用されている。高感度且つ高速レスポンス性の故に、SQUIDは非常に小型化できると共に、金属部の表面または内部深くに存在する欠陥の特徴を分析あるいは検出するのに十分な感度を保持している。検査測定(高温超伝導)には、静的あるいは変動する励起信号の印加が必要である。室温試料を用いて最適の空間分解能を得る為には通常HTS-SQUIDが採用されるが、多数の研究システムでは液体ヘリウムで冷却するSQUIDが同様に使用されている。HTS-SQUIDの例を挙げれば、生きている磁性バクテリアの運動または行動の研究やジェットエンジンのタービン円板、飛行機の車輪及び翼のジョイント等の磁気的イメージングなどがある。タービン円板のイメージングは、HTS-SQUIDの最初の工業的応用例となった。他の応用例として、ドイツのユーリッヒ研究センターの科学者は、鉄筋補強コンクリート橋中の欠陥を検出するSQUIDシステムを開発した。ある実験によれば、多くの鉄筋群が地下用レーダーを用いて位置検出が行われ、HTS-SQUID磁束計により走査測定された。3ヶ所で信号水準がしきい値を超えており、破壊検査により8本の補強鉄筋の内2本が完全に腐朽していることが判った。従来の磁束計では、このように深い所の欠陥を検出することは不可能という。最近出現してきた新しい商用例として、メリーランド州Beltsuille市のNeocera社は、非破壊式のパッケージ段階及び金型段階の欠陥検査向けにHTS-SQUIDによる磁気イメージング装置を開発した。最近のIC回路は、益々複雑化しバグ取りや失敗メカニズムの解明がより困難になっている。SQUID型イメージングを利用すれば、通電しながらマルチチップのパッケージ工程において各IC部品の解析が可能になる。IC中の実際の電圧・電流について、多くの定量的な情報が得られるからである。この他、現地調査と呼ばれる新分野でSQUID応用が追求されている。そこでは、SQUIDは開放空間あるいは遠隔操作で動作する。埋設した地雷の検知及び地図化、不発爆発物(UXO)及び有害埋設容器の位置同定、地下ケーブル及びパイプラインの追跡など多様な応用例が含まれる。

 以上紹介した極めて多様な応用例と試作機あるいは商用機の開発実績から観て、SQUID装置の今後の展望は益々明るくなることが期待されよう。

(高麗山)