SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun. 2001

12.バルク超電導体の評価方法の標準化案まとまる


 イットリウム系超電導体(Y-Ba-Cu-O)を中心とする希土類元素(RE)系のバルク超電導体の応用開発研究が日米欧でさかんにすすめられている。応用としては、磁場を利用した非接触浮上と、バルク超電導体を超強力磁石として利用するものに大別される。最近のトピックスとしては、スーパーコムが取り上げたように、日立製作所が超電導工学研究所と共同で、バルク超電導体の高い捕捉磁場を利用した高性能磁気分離装置の開発に成功している。

 バルク超電導体は、すでに市販されており、日本では新日本製鉄と同和鉱業が販売元となっている。米国ではアルゴンヌ国立研究所からライセンスをうけてSuperconductive Component社が販売を行っている。ヨーロッパでは、Karlsruhe Research Centerを代表として、いくつかの研究機関やベンチャー企業が販売を行っている。最近では、超電導浮上型フライホイール開発やモータ開発など応用に向けた国際プロジェクトも進んでいる。また、中国ではバルク超電導浮上を利用した5人乗りマグレブ実験に成功している。 しかし、バルク超電導体に関しては製品化はされているものの、その販売の基準となる特性評価方法が確立されていない。日本では、販売対象の材料の液体窒素温度における捕捉磁場データを添付しているが、世界的な標準ではないうえ、その測定方法についても規定はされていない。

 世界的には、米国アルゴンヌ国立研究所のJ. Hullらが研究者に呼び掛けて、バルク超電導体の相互評価を検討したこともあったが、標準化手法が確立するまでには至っていない。一方、ドイツにおいては一度標準化が検討されたが、それは評価方法の簡便な永久磁石を利用した反発力測定であった。評価に使用する磁石の規格統一を実施したが、バルク超電導体の特性向上とともに、反発力の飽和が生じ、特性にすぐれた材料の評価方法には適していないことが明らかとなっている。

 このような状況下において、科学技術振興調整費による知的基盤整備研究の「国際的先進材料を促進するための基盤構築に関する研究」(代表緒形俊夫)のテーマである「超伝導材料特性評価技術の確立に関する研究」の1項目としてバルク超電導体の標準化を1997年度に立ち上げ、国内ワーキングとともにバルク超電導研究に関する組織であるバルクフォーラムなどとの連係のもとに、標準化の検討を行った。これら国際活動はVAMAS (Versailles Project on Advanced Materials and Standards) のTWA16超電導グループ(代表:物質材料研究機構和田仁氏)の支援を受けて、国際ワーキンググループによる検討を行ってきた。また、国際標準化活動組織であるIEC/TC90(議長:L.Goodrich 幹事:住友電工佐藤謙一氏)のWG10(コンビーナ: J. Hull、超伝導工学研究所村上雅人氏)としても正式に発足している。

 バルク超電導体の代表的な評価方法としては、永久磁石(あるいは電磁石)とバルク体の間に働く反発力を測定する方法と、バルク超電導体が捕捉する磁場を測定する方法のふたつがある。これら手法は、原理的には電磁誘導によりバルク超電導体内に臨界状態に対応した電流を誘導させて誘導電流による磁化を評価するものであるが、ドイツのグループが経験したように、反発力測定では永久磁石の磁場強度が低いために、誘導電流は表面にしか流れず、特性にすぐれたバルク超電導体の相対評価を行うことが難しい。 したがって、標準的な測定方法としては、誘導電流が試料全体に流れる状態に対応する捕捉磁場の測定が必要となる。ただし、バルク超電導体の励磁には数テスラを超える高い磁場源が必要となり、超電導マグネットあるいはパルスマグネットでなければ対応できない。このため、海外の一部の研究者からは、高価な設備が必要となる評価方法は標準的な評価手法として不適であるという指摘もあった。これに対し、利用者(あるいは購入者)側の立場から、反発力のデータしかないものは購入するに値しないという要望があり、捕捉磁場測定を評価方法の標準化対象に選定することになった。

 捕捉磁場測定においては、捕捉磁場がバルク体の能力の限界まで達することが重要である。このため、十分高い磁場を印加する必要がある。一般的方法としては、常伝導状態のバルク体に磁場を印加した状態で、臨界温度(Tc)以下の測定温度まで冷却して、外部磁場を取り去った状態で、バルク体に捕捉されている磁場(表面磁場)を適当な磁気センサを使って測定する。この場合、理想的なバルク超電導体では、捕捉磁場は完全に対称となるが、実際のバルク体では分布が対称とはならない場合が多いので、2次元マップを測定する必要がある。以上が標準的な測定方法の概要である。この他にも、磁束クリープ、発熱、反磁場効果の問題などがあり、標準化にあたっては、これら因子の影響についても考慮する必要がある。

 現在は、標準的な測定方法の最終ドラフトができており、9月に韓国で開催されるIEC/TC90の総会において承認を得る予定となっている。

(田町レビ)