SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.3, Jun. 2001

10. 3.5 km長の1 GHzNMRマグネット用ビスマス系線材を開発
_日立電線、日立製作所、物材機構_


 鞄立製作所、日立電線梶A物質・材料研究機構は、1GHz−NMR装置用に、幅2 mm厚さ1 mm、長さ3.5 kmのビスマス系ROSAT線材を開発したと発表した(5月15日付)。

 1GHz−NMRマグネット用超電導線材の開発課題は、(1)23.5Tの強磁場を超電導で発生できる線材性能であること、(2)強大な電磁力に耐え得る線材であること、(3)均一磁場を発生させ得る高精度の平角断面形状の線材であること、(4)永久電流を実現するため、素線間の接続がないこと、などである。

 同研究グループは臨界電流を高めるため、断面の構成を独自に開発したROSAT wire(Rotation-Symmetric Arranged Tape-in-tube wire)とし、高強度の銀合金シースを用いて3.5 km長の平角線材を得ることに初めて成功した。鞄立製作所日立研究所岡田道哉主任研究員は「3.5 kmの長さに到達したことで、1本のロットで1 GHz−NMR用の酸化物超電導内層コイルを同時に2個作れるようになった。そのため、1ロットの線材を有効に活用でき、限界性能が要求されるNMR開発に対応するための、製造プロセス側からの選択肢を広げることが可能になった。本格的な応用の準備が整ったことになるほか、今後の開発スピードを大幅に向上できるだろう。」と明るい見通しを述べた。また、長尺線材開発を担当した日立電線潟Aドバンスリサーチセンタ佐藤淳一研究リーダーは「今回到達した3.5 kmは、線材1本の長さとしてはこれまで製作された高温超電導線材の中で最も長尺である。距離にすると、東京−上野間とほぼ一致する。Nb3Snなどの実用金属系超電導線と同じ生産体制がとれるようになった。実際に作業現場では金属系線材と並行して伸線作業が行われている。」と語った。また、1GHz−NMRシステムを開発している物材機構、木吉 司サブグループリーダーは「1GHz−NMR用マグネットシステムの開発は今が正念場。NMR実機の酸化物コイルの性能として23.5Tを発生できることをまず示さなければいけない。23.5Tの発生を今年度中に挑戦し、その後、永久電流モード化を進めて、早期に理研が進める蛋白質構造解析用に利用可能なNMRマグネットとして完成させたい。」と今後の見通しを語った。丸い断面の線材の中にテープ状のフィラメントが埋め込まれるBi-2212系のROSAT線材が提案されたのは98年7月。同グループは3年弱で実用線材長に到達したことになる。

(Clark Kent)