SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.2, Apr. 2001

8. 稀土類123系大面積超電導薄膜の開発
_住友電工_


 住友電工はこのほど、超電導マイクロ波フィルタの材料となるRE123系大面積超電導薄膜の開発について発表した(1月25、26日に行われた電気学会・超電導応用電力機器研究会にて)。3インチのLaAlO3単結晶基板の上に均一なHoBCO(HoBa2Cu3O7-δ)超電導薄膜の形成が可能になったとしている。

 超電導膜の作製方法としてはパルスレーザ蒸着法(PLD法)を用い、レーザ光を直角に反射させて集光レンズによりターゲット上に集光している。レーザ光を直角に反射するミラーとレーザ光をターゲット上に集光するレンズを同時に揺動させる機構をとっている。この方法により、レンズとターゲットの距離が一定に保たれるため、ターゲット上でのレーザ光の形状やエネルギー密度が変化せず特性の面内ばらつきを抑えて均一な薄膜を形成することができる。

 作製した3インチHoBCO薄膜(約0.8 μm膜厚)の径方向のJc分布測定から、液体窒素中で4〜5 MA/cm2の良好でかつ均一なJc分布が誘導法で確認されている。また作製した試料について通電法と誘導法の両測定方法によりJcを比較している。通電法では、試料を2 mm幅にパターニングして測定している(Jcの定義:1 μV/cmの電界が発生したときの試料単位断面あたりの電流密度)。試料の同一箇所を通電法と誘導法でJcの値を比較しており、Jcが低め(1〜2 MA/cm2)の試料では、誘導法のJcに比べて通電法のJcが低い傾向がみられるが、Jc(77 K)が3〜5 MA/cm2の試料では両測定法によるJcが同レベルの値が得られたとしている。通電法で得られた最高のJcは、Jc(77 K)=4.6 MA/cm2であり、膜厚0.8 μm、幅2 mmの試料断面に臨界電流値75 Aの直流通電を確認している(1cm幅あたりに換算すると臨界電流値375 A/cm)。さらに、3インチ膜試料全面に幅6 mmにパターニングした経路を作製し交流通電試験を行った結果、300〜400 Aのクエンチ電流を確認できたとしている(1cm幅あたりに換算するとクエンチ電流値500〜670 A/cm)。

 さらに超電導薄膜の水分に対する耐久性についても調査している。酸化物超電導薄膜を応用製品にする場合、薄膜作製後の保管状況によっては水分による劣化が問題になる可能性があるためである。そこで、YBCOおよびHoBCO薄膜の水分による耐久性について調べている。

 水分による耐久性試験に用いた薄膜試料は、3インチ径のLaAlO3単結晶基板上に成膜したYBCOおよびHoBCO超電導薄膜。薄膜試料は高温高湿(温度:60℃、湿度:70%)の状態に保った恒温恒湿槽の中で保管し、Jc(77 K)の変化を調査した。YBCOとHoBCOの両薄膜をそれぞれ表面保護(フォトレジストを使用)の有無を変えて実験を行っている。実験結果から、フォトレジストによる表面保護の有無の比較では、表面保護が超電導薄膜の劣化に対して非常に有効であることを確認している。またYBCOとHoBCOの物質間の比較では、HoBCO薄膜の方が水分による耐久性に優れるという結果を得ている。

 住友電工・エネルギー環境技術研究所・超電導研究部の大松一也主席研究員によれば、「今回の開発成果は3インチのLaAlO3単結晶上膜であるが、MgOやサファイアなど種々の単結晶基板にも適用できるため、マイクロ波フィルター用のみに限らず限流器などのパワー応用へ向けた材料開発へ展開することも目指している。PLD法によるHoBCO薄膜技術は当社が長年培って開発してきた材料とプロセスであり、線材化へも有力と考えている。各種サンプル供試にも可能な範囲で対応していきたい。」とコメントしている。


図1 3インチ径方向のJc分布


図2 耐久試験結果

(ゆきたん)