移動体通信は今、世界規模で爆発的な普及が進んでおり、IMT2000では動画像のやり取りも可能になる。より充実したサービスの提供を目指して通信容量は増加の一途をたどっており、有限な周波数資源を有効かつ効率的に利用することが社会的にも経済的にも重要になってきている。ところがIMT 2000は、周波数軸上で隣接するPHSとの干渉が予想以上に大きく、当初予定していた割り当て帯域20 MHzの内、5 MHzの使用を見送ってのサービス開始となる。将来は通信の需要の増大に応じて帯域をフルに利用することになるとみられるが、チューナブルフィルタならハード的な入れ替えなしで帯域変更に柔軟に対応できる。
今回開発したチューナブルフィルタは、1枚の基板上に、2種類のマイクロストリップライン型超伝導フィルタを直列に形成している(写真1)。フィルタ形状はヘアピン型とフォワードカップル型で、それぞれ通過帯域の低周波側と高周波側が特にシャープになるように最適化されている。各フィルタの上側は誘電体板で覆われており、板の位置を機械的に制御することで各フィルタの通過帯域を独立に左右にシフトすることができる。全体のフィルタ通過帯域は両者の重なり部分で決まる。
一般的に、ひとつのフィルタで中心周波数と帯域幅を可変にするには、共振素子長、素子間結合および外部Qを個々に制御する必要があり、多段フィルタでは制御パラメータ数が膨大で複雑な調整が必要になる。本方式なら段数にかかわらず、わずか2個のパラメータで特性を簡単に制御できる。また、チューニング機構の付加による搊失の増加はほとんどなく、超伝導フィルタの特長である低挿入搊失とシャープカット特性を搊なうことなく帯域調整が可能である。図1はチューナブルフィルタの通過特性シミュレーションである。中心周波数は1.93 GHz、バンド幅は20 MHzである。スカート特性は通過帯域の両側とも30 dB/1 MHzで、誘電体の位置制御によりスカート特性を維持したまま10 MHzの中心周波数シフトと5 MHzの帯域幅変化が得られた。この結果は実験でも確認できた。
今回の成果について、東芝研究開発センター 新機能材料デバイスラボラトリーの加藤理一主任研究員は、「現在は機能実証の段階だが、近い将来、基地局のタワートップに設置可能な軽量でコンパクトなプロトタイプを完成させる予定である。」と語り、今後の展開については、「瞬時に自在に帯域を切り替えられる機能を積極的に利用して、ソフトウエア無線といった、システムの壁を乗り越える通信技術への応用も目指していきたい。」とコメントしている。
図2 チューナブルフィルタの通過特性
(Happy House)