現在、ジョセフソン素子の示す量子力学的効果(ジョセフソン効果)を利用した電圧標準システムが、日本、米国、ドイツ、フランス、英国、韓国等において、電圧の1次標準として採用されている。しかし、従来のシステムは、(i)ジョセフソン素子を極低温に冷却するために常時液体ヘリウムを供給し続けなければならない、(ii)高精度電圧を発生するために秒単位の時間がかかる、(iii)雑音耐性が小さいために高額のシールド設備を必要とする、という問題点があった。これらの問題点の中で、(ii)と(iii)に関しては、近年、National Institute of Standards and Technology(NIST)の研究者によって提案されたプログラマブル電圧標準方式によって解決可能なことが明らかになっている。しかし、(i)の問題に関しては、これまで、解決法は明らかにされていなかった。このため、ジョセフソン素子を用いた電圧標準システムの普及は、従来、液体ヘリウムを容易に入手することが可能な先進国の標準研究所に、ほとんど限られていた。
一方、経済活動のグローバル化に伴い、産業界で使用されるほとんどの精密計測装置に対し国家標準へのトレーサビリティが義務付けられて来ており、先進国の標準研究所だけでなく発展途上国の標準研究所、さらに計測器産業界においても、装置校正手続きの簡素化、ひいては貿易の活性化のために、ジョセフソン電圧標準システムを保有することが近い将来必要になると予測されている。そして、そのためには、小型冷凍機によって冷却し動作させることが可能であり、プログラマブル電圧標準方式を適用することが可能な、新しいジョセフソン素子を開発することが必要であると考えられていた。今回、電子技術総合研究所が開発した新型ジョセフソン素子は、それらの課題に答える全ての特徴を有する。
電子技術総合研究所に所属する全ての研究グループは、平成13年4月1日に独立行政法人「産業技術総合研究所」に編成換えされるが、東海林彰ラボリーダーらのグループは、エレクトロニクス研究部門の超伝導計測デバイスグループと磁束量子デバイスグループに編成換えされる。前者のグループ(東海林彰グループリーダー)では、今回開発した新型ジョセフソン素子を用い、計測標準研究部門の研究者並びにNISTの研究者の協力を得て、1Vの液体ヘリウムフリー・プログラマブル電圧標準システムを数年以内に開発することを計画している。また、磁束量子デバイスグループ(佐々木仁グループリーダー)では、交流電圧標準への応用を目的としたRSFQ回路をベースとするDA変換器を開発することを計画している。
((山形の黄色いさくらんぼ)