SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.2, Apr. 2001

12. 高温超電導薄膜販売開始
_超電導フィルタ開発にはずみ_
東北精機工業(株)


 東北精機(株)では、大面積の高温超電導薄膜を安価で販売を開始すると発表した。すでに、九州大学や山形大学等幾つかの研究機関に販売し、良好な膜であるという返答を得ていると言う。高温超伝導薄膜は、超電導フィルタや超電導限流器等の応用に期待されており、世界的に研究が進められている。特に、超電導フィルタは、次世代の移動体通信基地局用フィルタとして有望視され、その開発研究が世界的に急ピッチで進められている。しかしながら、超電導フィルタを試作するためには、2インチ角や2インチ丸程度の面積を持つ、低表面抵抗の両面薄膜が必要である。その薄膜を如何に迅速に手に入れることができるかが研究の進展に大きく影響を与えてきた。自社や自己グループで調達できない研究者は、超電導フィルタをなかなか試作できずにイライラしていた。今まで、大面積の高温超電導薄膜を供給していた企業は、ドイツのTHEVA社とアメリカのディユポン社の2社だけであり、迅速・安価の供給とはかけ離れていた。最適な超電導フィルタのパターンを設計しても、それを実証できない研究者は沢山いた。また最近、仕事の分別化や効率化が重要視され、自社で薄膜を作製しないで外部から調達する企業も増えてきた。そのような企業では、安く・早く薄膜を供給できる企業の出現を望んでいた。特に日本でその傾向が強くなってきた。

 東北精機(株)は本来、精密加工や産業用FAシステムの設計・販売をしている、山形の中堅企業である。数年前より、真空チャンバーや真空機器の製造・販売等に業種を拡大し、スパッタリング装置の製造・販売を行うことになった。製造したスパッタリング装置の性能を評価する一つのターゲットとして、高温超電導薄膜の作製に取り組んでいた。山形大学との共同研究を重ね、この度大面積高温超伝導薄膜(YBa2Cu3O7-d)の製造・販売を行なうようになった。同社は、山形大学と共同開発したスパッタリング装置(誘導プラズマスパッタリング法)を用いてYBCO薄膜を作製している。東北精機が作製した薄膜の外見写真を図1に示す。いずれも、Tcは88Kを超えるものである。 YBCO薄膜を超電導フィルタや超電導限流器等に応用する場合、薄膜の表面抵抗値や臨界電流値が重要なファクターとなる。超伝導フィルタに用いる場合には、表面抵抗の小さい薄膜が必要である。表面抵抗を小さくするためには、c軸配向した薄膜で、かつ結晶粒の面内配向度を高めることが必要である。東北精機では、全ての薄膜のX線φスキャン測定を行ない、面内配向度をチェックし品質を保証している。(図2に示される様な、YBCO102面の4回対称回折線を確認し販売することにしていると言う)。また、臨界電流値や表面抵抗値を必要としている方には、測定値を添付して販売することや、高温超電導薄膜以外にも、バッファ層の形成や保護層の形成も可能であり、ユーザーの要望に相応できるようにしたいと言っている。

 日本の超伝導エレクトロニクス、特にマイクロ波エレクトロニクスの進展には、高温超電導薄膜の迅速な供給が上可欠である。ユーザーの一人としても、出きる限り安価・迅速を心がけていただきたいと願っている。詳しい問い合わせは、東北精機(株)電話023-686-6511の横尾政好氏に。


図1 YBCO薄膜の外観写真(50mm角,20mm角の薄膜)


図2 YBCO薄膜のX線φスキャン(50mm角,20mm角の薄膜)
(面内配向度が良いことを示している)

(雪むかえ)