SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.2, Apr. 2001

11. テラヘルツ動作確認(固有ジョセフソン接合)
_アンテナ結合Bi2212接合で1.6THzシャピロステップ観測_


 東北大学未来科学技術共同研究センタ一の山下努教授グループはJST戦略基礎研究プロジェクトで、固有ジョセフソン接合の新しい作成プロセスを開発し、明確なテラヘルツ帯のシャピロステップの観測に成功したことを公表した。山下教授らはこの成果はテラヘルツ帯超伝導レーザーの可能性につながるものとしている。

 この開発では、素子となる領域を両側から加工しボウタイ・アンテナとチョークがついた200nm厚の孤立形Bi2Sr2CaCu2O8+x固有ジョセフソン接合を作成している。

 この新しい加工プロセスは次の利点がある。第一に接合中の層の数が制御できる。第二に単結晶の内部を用いた孤立形の接合であるため表面の汚れ等の影響がなく、そのため臨界電流の値が均一である。第三にアンテナなどと接合の結合が容易で、そのため、高周波電力の出し入れの効率が向上した。

 図1はボウタイ・アンテナとチョーク回路のついた接合を示す。従来のメサ構造の接合のような大きな母体結晶がなく、シリコン基盤上にポリイミドで固定されている。シリコンはテラヘルツ帯まで搊失が極めて小さい材料である。この為にテラヘルツ波を基板のいずれの側から照射しても応答が観測できる。

 図2(a)は接合のI-V特性で、臨界電流が均一であることを示すとびとびのブランチ構造が見える。

 これにfFIR=1.6THzの電磁波を照射すると、電圧間隔VS=Φ0fFIR=3.4 mVステップが明瞭に観測された。図2(b)にこのときのI-V特性を示す。17個のシャピロステップはNΦ0fFIR (N=1~17) の関係を満足している。ここでNは層の数と一致しているから、Nはシャピロステップの次数ではないと考えられる。入射波は各単位接合に均一に分布し、これによって各単位接合がテラヘルツ帯で同期して電圧を発生していることを示している。この開発を行った王華兵助教授は「この実験結果は固有ジョセフソン接合がテラヘルツ帯の新しい電子デバイスとなることを初めて実証した。新しい加工プロセスの採用により、接合とアンテナ等の回路を集積させることが可能になり、テラヘルツ帯電磁波と接合の結合が格段に上昇した。この技術を用いるとテラヘルツ帯超伝導レーザーの実現が期待できる。」とこの結果からの期待に興奮している。


図1 アンテナとrfチョークフィルタとともに集積化された固有ジョセフソン接合の概略図


図2 (a)4㎛×4㎛のa-b面の寸法をもつ試料の電流-電圧特性(20K)。
(b)1.6THzの照射下の電流-電圧特性(6K)。

(三尺玉)