SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.10, No.2, Apr. 2001

10. B出回り始めた高密度BaZrO3坩堝
_Baを含む高温超伝導体結晶育成に朗報_


 ティーイーピー社によって開発された細孔径が小さく高密度のBaZrO3焼結体材料が有償サンプルとして供給されるようになり、様々な高温超伝導体結晶の育成に効果があることが明らかになってきた。本材料については既に特許出願を終えており、近く本格的な市販が開始される模様である。

 Flux法によるRE123系単結晶の育成においてRE-Ba-Cu-O融液との反応が無いBaZrO3坩堝の使用によりその高純度化に成功したことがジュネーブ大学のErbらによって報告され、特に高純度単結晶を必要とする物性研究者の注目を集めたのは6年前のことである。後に彼らの指導によりスイスのメーカーからBaZrO3坩堝が世界的に市販されるようになったが、これを用いて作製したRE123系単結晶に関する研究報告はこれまでほとんど無い。このBaZrO3坩堝は実際日本でも多く購入され、様々な研究機関でRE123単結晶の育成に試用されたが、融液の坩堝材への侵入や流出、ときには坩堝の変形や崩壊が起こり、単結晶が育成できたという話は聞こえてこなかった。この坩堝の一つの断面研磨組織に10mm程度の大きな孔が多数存在していたことから、高品質の製品は流通していなかったものと思われる。ところが、その2年後に東京大学の岸尾光二教授らのグループは独自に高純度BaZrO3粉末を調製し、セラミックスメーカーであるティーイーピー社の協力を得て作製した坩堝を用いてRE123系単結晶の育成に成功した。しかしながら、両者は共同研究で年数個程度の規模でBaZrO3坩堝の開発を継続したがその成果は芳しいものではなかった。

 一昨年度、科学技術振興事業団の独創的研究成果育成課題事業への参画を機会に同社はBaZrO3製品の本格的な開発に乗り出し、一次粒径が0.5mm以下のBaZrO3仮焼粉末を任意の形状に成型した後、1700℃以上の高温、還元雰囲気下での長時間焼結によって、相対密度99%以上、細孔径が1mm以下という緻密な焼結体の作製に成功した。これによって昨年度より写真に示した様々な形状のBaZrO3坩堝のサンプル提供が始められたが、早速、先月の応用物理学会において、12mm角の大型Y123単結晶育成(東工大、山内尚雄教授らのグループ)、1.5mm角のHg(Re)1223単結晶育成(岸尾グループ)など新しい成果が報告された。開発と試用に携わってきた下山淳一助教授(東京大学)によれば、RE123系の溶融凝固バルク体の作製においてもBaZrO3製台座を用いることによって底面までRE123結晶が発達するとのことで、この方面への応用も期待できる。今後の課題は量産化した際の品質の維持であるが、これについて開発担当者の内藤恭吾氏(ティーイーピー社)は「品質を左右するのは仮焼粉末の性状で、その大量作製プロセスの最適化を進めており、確実に製品の信頼性が向上してきた。」とコメントしている。なお、本製品についてはティーイーピー社のホームページ(http://www.tepceram.co.jp/)にて公開されている。

 BaZrO3製品はBaを含む高温超伝導体の結晶育成に幅広く応用できるので、今後、用途は増えるものと思われる。もちろん得られる高品質な結晶を用いての研究成果にも注目したい。

(JAP)