SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 10, No. 1, Feb. 2001.

6.半導体加工工場廃液処理に超電導磁気分離
_阪大産研、岡大工、京都工繊、TKX_


 大阪大学産業科学研究所、岡山大学工学部、京都工芸繊維大学の研究グループは、株式会社TKXと共同で、超伝導高勾配磁気分離システムを使用した半導体加工工場廃液処理を行う装置を開発中であると報告している。基礎研究は日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業プロジェクトの「強磁場による磁気分離を用いた環境改善と資源循環利用」(渡辺プロジェクト)の援助を受けて実施されたものであり、また実機の導入に関しては近畿通商産業局から平成12年度創造技術研究開発事業の援助を受けている。

 半導体加工廃液:太陽電池用シリコン・ウェハは一般にワイヤーソーで切断加工されている。ワイヤーソーは高速度で走る多数本の細径のワイヤーにシリコン・ブロックを押し付け、砥粒と分散液からなるスラリーを供給しながら切断する装置である。分散液としては水系と油系の二種類があるが、現状では油系が主流である。このスラリーは循環使用できるが、使用回数が増えるとブロックの切断時に発生するシリコンの大量の切削粉がスラリー中に蓄積されることになる。この切削粉はスラリーの粘度の増加をもたらし、ワイヤーソーの切断性能とウェハの加工精度の劣化を引き起こすことが知られている。このため通常は1つのシリコン・ブロックの切断ごとに一部のスラリーを廃棄し、新しいスラリ−と入れ替えが行なわれている。この廃棄スラリーの処理費用と新規スラリーの購入費用がワイヤーソーのランニングコストを高いものにしている。廃棄スラリーの量はワイヤーソー1台あたり約200リットル/日にも達し、またそれと同量の新規スラリーが必要となっている。特に廃棄スラリーの処理は、分散液が油系であるので、産業廃棄物処理業者に頼っている。今後,環境問題がクローズアップされてくることが予測され、環境に配慮して廃棄するスラリー量を極力低く抑えることが、ランニングコストの低減にも結びつき、ひいては太陽電池の製造コストの低減に寄与すると考えられている。一方、廃棄されるスラリーは切削粉を除去すればまだ充分に使用できる品質を維持しており、スラリーの再生あるいは砥粒の回収が望まれている。再生法として遠心分離等を用いた方法が試みられているが、必ずしも満足できるものではないのが現状である。

 磁気分離の問題点と解決法:廃棄スラリーより砥粒の回収を行う場合、砥粒であるSiC(平均粒径約11μm)に磁気力を働かせ、磁気分離する必要がある。残念ながら超伝導磁石を利用しても直接磁気分離することは困難であり、廃棄スラリーの再生に磁気分離が利用できるとは考えられていなかった。ところが、日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業プロジェクトの中で、阪大産研−岡大工−京都工繊のグループが無機懸濁液から無機粒子の磁気分離が可能であることを実証したため、磁気分離法が廃棄スラリー再生技術としてクローズアップされたわけである。

 上記グループは無機微粒子に磁性体を附着させる(担磁)ことで磁気分離を可能にしている。担磁の手法はコロイド化学的な手法とメカノケミカルな両手法で実施し比較検討している。コロイド化学的な手法とは、ここではSiC表面の水酸基を利用して(水)酸化鉄超微粒子(硫酸第一鉄に水酸化カリウムを反応させ水酸化第一鉄を水中に生成し、水中および空気中から供給される酸素で酸化させることにより形成、約50nm程度の粒径と考えられる。)の水酸基と化学的に反応させ(オール化あるいはオキソ化)担磁する手法である。またメカノケミカルな手法とは,磁性金属片(今回は鉄)と無機粒子を若干の溶媒中で擦り合わせ、金属片を無機粒子に附着させる方法である。砥粒と金属片の接触部は局所的には1000℃以上に昇温していると考えられ、機械的に附着しているのみならず化合物を作り強固に附着しているものと考えられる。

 これら担磁した無機微粒子(SiC)を磁気分離で回収するモデル実験を行った(水に懸濁させて実施)。図1にコロイド化学的な手法で担磁したSiC粒子(平均粒径約12μm)をサマリウム・コバルトの永久磁石で回収した結果を示した。横軸はSiCに対する(水)酸化鉄超微粒子中の鉄のSiCに対する重量分率である。適切に担磁すると、約5%程度の担磁でSiCは100%の回収が可能である事が理解できる。また図2にメカノケミカルに担磁したSiCを3Tの超電導磁場を利用して磁気分離を試みた結果を示した。この図から明らかなように、担磁したSiCを100%回収することができることが明らかになった。これらの基礎的な検討から、コロイド化学あるいはメカノケミカルな手法いずれの方法を用いてもSiCに担磁することができ、かつそれを利用してSiCを磁気分離できることが明らかになった。これらの基礎データから廃棄スラリーの再生の可能性が見い出された。

 廃棄スラリーからの砥粒の回収の可能性と実用性:廃棄スラリー中に存在する砥粒のSEM観察をするとともに元素分析を行ったところ、ワイヤーソーのワイヤーがメカノケミカルな反応で砥粒に附着していたことが確認された。残念ながら附着量は極微量で、これを直接利用して工業的に廃棄スラリーを再生できるほどの量ではなかったが、実験的にこの附着した鉄を利用して磁気分離の可能性を確かめた。超伝導磁気分離を実施したところ、担磁しなくても約30%の懸濁成分が分離できることを確認した。さらに、分離された懸濁成分の約95%がSiCであることも確認した。この実験より、基本的に廃棄スラリーの再生は磁気分離で可能であることが確認できた。これらのデータから判断し、システム全体としては、約701/hの処理能力があれば、経済的に成立するとの見通しを立てることができた。現在、システムの構築を行っている。

(バーリトゥード)


図1 コロイド化学的に担磁したSiCの
永久磁石による磁気分離の結果
◇:コロイドを析出させて水溶液として混合,
■ :FeSO4,KOHを混合


図2 メカノケミカルな手法で担磁したSiC粒子の
懸濁液(左)とその磁気分離後の懸濁液(右)
担磁によりSiCは黒化している。